オススメ度 100点
反対側からの貴重な意見度 100点
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「くっすん大黒」から愛読させていただいている町田氏。
フィクションとはいえ、作品には酒が随所にでてくるし、主人公は大抵碌に仕事もせず呑んだくれている中年だったりする。そういう破天荒さも含めての作風だと思っていたし、作者もそう公言していた。
ところが。
約30年大酒家であった作者が、実はここ2-3年酒を呑んでいない。と。
この本は、そういう酒好きの人が、酒をやめようと思った心理の動きを綴ったもの。
* * *
私は肝臓専門医でもあるが、アルコール依存症の人を結構よくみている。
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基本的に依存症に関しての洞察やリテラルは、治療側からのものがほとんど。
依存症の側からの言説をまとまった形で見ることは少ない。
中島らもの『今夜すべてのバーで』とか、破滅型文豪のエッセイとか、西原理恵子のご主人の事例もあったけれども、基本的には破滅してゆく人の言説であったり、破滅してゆく人を傍観するものであったりで、大酒家の狂気を孕んだ世界から、酒をやめた人間の言説というのはほとんどない。
- 作者: 中島らも
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/03/29
- メディア: Kindle版
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今回の町田氏の本は、長年アルコールに浸淫してきた人間が、アルコールについてどう考えているのか、延々と、綿々と続く(この辺のダラダラ坂的な文章、実に町田氏らしい。ビジネス本とかなら5ページくらいに集約されそうな内容を100枚くらいにしあげるのが、町田節の真骨頂だ。
市井のアルコール好きの人の一般的感覚をうまく代弁しているのかもしれん、と思わせる、のたりのたりとした文章であった。
あれやこれや理屈をこねまわすが、町田氏はそういう人達の中では抜群に口が立つ訳でね。
大伴旅人になぞらえる、だとか「いずれ死ぬのに節制など卑怯じゃないか」とか、酒を飲む楽しみを「奪われる権利」というのはないんじゃないか、とか。
「人、酒を飲む、酒、酒を飲む、酒、人を飲む」
そもそも人生というのは楽しいものではない、と考えるべきだ。
禁酒に対して、心理的な「酒を飲む楽しみを奪われる」とか、そういう考え方をしてはいけない。とやめられない。
酒を飲もうが飲むまいが、人生は楽しく、有意義なものではないのだ。
という、当たり前ではあるが、超クールな卓見によって、町田氏は、酒を飲まないことを決意し、爾来飲酒していない。
その効用についても後半20%くらいで詳しく書かれていた。
あとは戦術的な部分、酒飲みのTIPSもある。
- 節酒はなかなか難しいんじゃないか、というのが酒飲みとしての意見だ。
- また、断酒会というものも、連帯感という意味では大事だが、相容れない人間が徒党を組むことの難しさや、組織化されると、飲酒をやめるという目的ではなくて組織を存続することが目的におきかわるんじゃないか、と述べている。(ま、これは一匹オオカミの町田氏らしい考えだとは思うけど)。
- 禁酒宣言自体は、結構危険だ。と思う(町田氏の場合は酒をやめてから一年くらいしてから家族にも言うようになったらしい。まあ家族はそりゃ気づいていたとは思うが)
いずれにしろ、アルコール依存の世界は、治療者には、よくわからない。
アルコールの世界に行ってしまっている人は、言葉の闊達さがだいぶ奪われているから。
町田氏のこの本は、かなり興味深かった。ただ、普遍性があるのかどうかは、ちょっとわからないが。
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