半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『ジャズの「ノリ」を科学する』

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(表紙画像)
オススメ度 100点
ジャズ研は各部一部ずつ購入すべし度 100点

ジャズ演奏者は必見のこの書だといいましょう。
九州でピアニストとして活躍するハイアマチュアの医師の先生の作品。

簡単にいうと、音源をスペクトル分析してベース、ドラム、フロント楽器が、どのようなリズム、テンポで音符を刻んでいるのか(つまり、プレイヤーがどういう風にフレージングしているのか)を数値化した研究。

結果は非常に面白いものだった。

スウィング時代=(Coleman Hawkinsを代表とする)はある完成したイディオムがある。
チャーリーパーカー のリズムの作り方はそれとは全く違う。
レスターヤングは、コールマン・ホーキンスとパーカーの中間。
マイルスは、タイミングとしてはチャーリーパーカーに似ているが、
その後、さらにBirth of the Coolの時代に、それを進化させたリズムを決定づけ、これがハードバップ期のリズムの原型になった。
ということだ。

スウィングでは、裏がレイドバックし、頭拍と裏拍の比率が、2:1とか3:2とかそういう決まった拍子で、グループが作られる。0-0.65-1みたいなタイミングで裏がある。つまり、裏拍と表拍の比率は 65:35という感じ。

ところが、バップでは、頭拍も裏拍も長さとしては、ほぼイーブン。ただし、頭のタイミングは、表拍はベースが鳴ったあと0.2拍後、裏拍は0.7拍 (0-0.2-0.7-1)という格好になっているらしい。

ええー?
実はバップで、表裏がスイングせずイーブンになる、しかしクラシックのイーブンとは確実に異なる、というのは気づいていた。しかし表拍がレイドバックしているとは思わなかった。
(なんとなくモノホンのモノマネでやっていたので)
タイミングとしてはスウィング以上にベースからはレイドバックしているけど、アーティキュレーションはイーブンという演奏の達意が、数値によって示されるとは…

でも確かに、この事実を目にすると、今までの謎が解ける。
 なるほど。なるほど。

ただ、学術論文として批判というか、意見をするとすれば、この研究では、BPMによらず、プレイヤーみは固有のハネ値(表拍・裏拍のポイント)があるという前提で解析しているけれど、裏拍の位置は比率だけではなく、絶対的な時間としても規定しうると思う。つまり、BPMが速い曲と遅い曲では、固有値からずれるはずなのである。その辺りは今後の研究を待ちたいところだ。

ジャズ研は、各部に一つは置いた方がいい。
すごく重要な事実が書かれていると思う。