半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『深夜高速バスに100回くらい乗ってわかったこと』

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(表紙画像です)
オススメ度 80点
こういうのグッとくる度 80点

デイリーポータルZはずっと見ている。
デイリーポータルZもそうだが、Web上でいろんな記事をアップしている人だ。この本はそういう記事の集大成。

東京や大阪が中心だが、それ以外のちょっと郊外の町を歩いたりして、出くわす「なんでもない店」での飲食体験を丁寧に記事にしている。
その他、「家系ラーメン」と言う言葉通りに、友達の家にお邪魔して、作ってもらうラーメン、の記事だとか、動物園で昼のみ宴会をしてみたり、路上に椅子を置いて風景を愛でながら飲む「チェアリング」など、オリジナルな中にも緩さがつきまとう記事が印象的だ。

これだけ外食産業が栄え、フランチャイズが全国を席巻している昨今というのを考えると、(そういう風潮に逆に食らいついてコンテンツを量産しているのが、例えば『めしばな探偵タチバナ』などだと思う)、街の個人経営の食堂、フランチャイズ以下のところは淘汰されてしまった、と考えるべきなんだろう。
逆に、21世紀に入っても相変わらず生き残っている飲食店は、地域に愛されているということなんだと思う。

グルメ探訪という趣でもなく、街をぶらぶら歩いているような、そしてその道中にたまたまある飲食店にふらりたちよった、ような、そんな、テンションは高くはないが、それゆえにか、優しく暖かい視点で街を切り取る。

エッジの効いた記事、というよりは、どこか薄ぼんやりとしている。

でも、例えば、おらが街の、ラーメン屋とか、そういう人を、誰に紹介して欲しいか、というとこの人だよね。
例えば、いい人で有名な親戚のおじさんが、テレビに出る。司会は誰?というと、とんねるずダウンタウンだったら、ちょっと止めたい。だけど、勝俣だったら出てもいいんじゃないか。
この人には、そういう優しさが文に溢れている。
ラーメンの旨さとか、新奇さとか、相対評価してどうかはともかく、その街における、その店の「ハマり具合」をきちんと言葉にしてくれるだろう。
エビデンスや序列ではなく、ナラティブなのだ。

ウェブというのは、即物的に自分たちが求めている情報を素早く、抵抗なく拾い上げるためのメディアだ。
しかし、そういった効率第一のウェブの世界で、効率性からも有益性からも程遠い無縁なこのような記事が、逆にネットの中では、妙な存在感をもつのは面白いことだ。

ま、我々人間が、矛盾しているということなんだけれども。