最近は街にも出なくなったので、中古レコードとかを全然買わないわけですよ(ええと、中古レコード屋のないところなんて、自分判断では「街」でさえないわけです。今住んでるこの市も含めてですね)。
そういうのが積もり積もると結構フラストレーションがたまるものでして。
いいかげん「CD買いたい熱」がたまっていたのですが、仕事の関係で動けないので、アマゾンを利用したりしてみました。
amazon便利やわ。
イーコマース万歳!ロングテール万歳!
しかしアマゾンで買う場合は、中古屋でのそぞろ買いに比べると「自分が何を欲しいか」に、より自覚的である必要がありますな。
欲望をきちんと言語化していないと、まともに買い物さえできない。中古屋でジャズのCDを買うとき、僕は10枚くらい一気に買うわけですけれども、好きなミュージシャンしか買わないとかではなく、ざらっとひととおり眺めた上で、お値ごろ感のあるやつをざざざっと選んでいきます。さすがに名前も聞いたことがないミュージシャンには手を出しかねますが、名前だけおぼろげい知っているやつでも、ジャケやパーソネルがよさそうだったら手を出します。それは中古CDのお値段と、CDを見た時の「良さそうな感じ」との総合判断なわけですけれども、これは一種の「出会い」と考えていいと思うんですよ。
結果的に全くはずれの時もあるし、拾い物に出会うこともあります。そういう場合は自分の趣味嗜好にもう一つ枝が生まれるわけです。そうやって、好みというのも、徐々に拡大するわけですね。
そういう、中古屋のスケールというのは、まあ自分にとって慣れているというのもあるでしょうが、おそらく人間にとって選択をする際に最適な個数なのだと思うんです。例えば100個の中から5個、1000個のなかから10を選ぶことは、人間の感性に合致しているけれども、10000個のなかから100個を選ぶことは、人間的でない感じがします。
Amazonにおいて必要とされるのは、そういう能力です。Amazonでは、ほぼ無限の選択肢があります。
しかし、だからこそ、自分で枠を狭めて選ばなければいけない、それが「自分の好みをより言語化しなければいけない」ということだと思う。
* * *
とりあえず、最近は足を洗っていたんですが「トロンボーン・ジャズ」方面で数枚買ってみました。
本サイト「半熟ドクター」の方には書いているのですが、僕は昔からなぜか、フランク・ロソリノ(Frank Rosolino)というトロンボーン奏者がだめなんです。どうも受け付けないところがある。で、学生時代はずっと嫌いを公言していました。
ですが、YouTubeとかでの映像を見ていると、バラードの演奏とかやっぱりすごいなーとか思いなおすことが最近ありまして。考えてみれば、ロソリノのCDは人に借りて聴いたことはあっても自分で買ったことがなかったので、それじゃあ、批評以前の問題であるということに思い至ったわけです。
というわけで、今回、フランクロソリノ集中講義!苦手克服月間!
という趣きで、鼻息荒く、ポチポチとclickしてまわりました。
* * *
で、フランクロソリノなんですが、今回買ったのはこの5枚。
- Frank Rosolino Quintet (VSOP,1957)
- Free For All (Spesicalty,1958)
- Turn Me Loose (collectable,1961)
- Trombone Heaven, Vancouver, 1978 (Uptown,1978) Carl Fontana and Frank Rosolino
- Last Recordings (sea breeze jazz,1978)
あー、今回の記事は誰に向けてのものかというのも、僕もよくわからないまま調子乗って書いたわけですが、とりあえず、これ読んで、興めた*1人って、何人くらいいるんでしょうか?この5枚全部あわせて、はまぞうにリンクされている日記はたった一つだけですよ。
……まー、トロンボーン吹きの方以外には本当どうでもいい話です。
まず比較的キャリアの初期であろうと思われるこの二枚。

- アーティスト: Frank Rosolino
- 出版社/メーカー: Vsop Records
- 発売日: 1995/03/27
- メディア: CD
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おそらく原因はバックのサウンドで、一言でいうと「どウェスト・コースト」。
八分音符の裏のタイミングなどはウエストそのもので、遊びがないし、コシもない。
サックスはリッチー・カミューカで、バンド全体が彼の強いコントロール下におかれている感じがします。カミューカのアレンジは嫌いではないのですが、いかんせんスモールピースのビッグバンドみたいな感じのサウンドで、こっちこちなんですよ。
ロソリノの持ち味というとやはりそのアドリブなわけで、このアルバムの方向性では自由なスペースが無さ過ぎる。例えていうと、素人いじりフリートークが得意なロンドンハーツが吉本新喜劇に出さされているかのようで、ロソリノの良さがあまりでていません。
サウンド的にも今聴くと、この盤だけ、妙にのっぺりした印象を受けてしまうんですね。ウェスト・コースト・ジャズはアート性よりもショウビズもしくはエンターテイメント性の方が重要視されているわけで、そのサウンドはアメリカによくいるナイスガイみたいな感じなんですよ。内面の葛藤とかコンプレックスとかそういうものは、とりあえずないこととして振る舞うから、ぱっと見屈託がない分、深みに欠けている様な印象を受けてしまう。
あと、ジャケはなんか、グリーンジャイアントぽくて、あまり好きではないです。
そういえばフランク・ロソリノのCDの欠点として、どれもジャケがいまいちなことも僕が嫌いな理由でした。

- アーティスト: Frank Rosolino
- 出版社/メーカー: Warner
- メディア: CD
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スタンダードはLove For SaleとStardust,Greater Loveが演奏されています。CD全体の印象はLove For Saleに集約されると思います。
改めて思ったのが、トロンボーン奏者としてのロソリノは相当な技量をもっているということです。
まず、ソロはかなり高い音を中心に組み立てられています。例えばベニーグリーンの場合、最高音はせいぜいHi Dまでですが、ロソリノの場合は基本的なアドリブラインも一もしくは二倍音ばかり高く、Hi Fあたりまでへの跳躍も多用される。
また、ダブルテンポの細かいフレーズも随所随所でくりだされ、技術的にはかなり派手といっていいと思います。
そして特筆すべきはこうした細かいフレーズがかなりの音量と共存していること。
ちょうど車のアクセルとハンドリングの関係に似て、音量とフレーズの細かさというのはTrade-Offの関係なんですが、ロソリノはこうした高い音型への跳躍や速いパッセージでもそうとう息が入れた状態でやすやすとこなしています。この音量と速さの両立は、ジャズの中ではJ.J.Johnsonと並んで最高のレベルといえるでしょう。
私は、どちらかというとBill WatrousやCarl Fontanaなどの白人スラスラ系トロンボーンが好きなんですが、彼らは決して速いパッセージをフォルテッシモで吹くことはありません。現代の技巧派トロンボーン奏者もしかりで、逆にいいますとトロンボーンの速いパッセージはPAの存在に支えられてこそ生み出されているといえるでしょう。
J.J.Johnsonのソロは譜面ヅラは現代の基準でみると、そこまでテクニカルではなくみえるのですが、おそらくJ.J.はPAのあまり充実していない環境で吹いていたせいに思われます。
多分、生で聴けばそういうところは一目瞭然で、J.J.が現代でも「最高のジャズトロンボニスト」と言われているのは、多分そういうことだと思います。で、ロソリノもJJと同じそうした美質を備えている。ロソリノはJJと比べても遜色なく、現代の巨匠と比べても頭抜けていると思います。
ただ、そうやって吹き込む音の弊害として、音は割れやすい。
ルイ・アームストロングもそうですが、あまりに圧倒的な音量の場合はマイクからすこし離して録音せざるを得ないし、音が割れているせいで、録音上はぺらぺらしたBeepyな音になりやすい。また、高音に駆け上がるフレーズで、アクセントの音が、つぶれてしまっていたりとか、そういう粗さもあります。高排気量の車のアクセルを床まで踏み込んだ時にパワースライドになるようなもので、樂器のコントロールという点では随所にアウトコントロールのような部分があり、少し丁寧さを欠いているように受け取られる。その辺が学生の時の僕には気に入らなかったのだと思いました。
また、大音量かつフレーズを刻む場合、しっかりタンギングをしないと音がきちんと切れてくれないわけですが、ロソリノは「マシンガンのような」強いタンギングでフレーズをねじ伏せています。しかしそのために、シラブルがぶちぶちとタンギングによって切れやすい。この辺も、すこし流麗さを欠くと受け取られがちなところではあります。

- アーティスト: Frank Rosolino
- 出版社/メーカー: Edge Got530
- 発売日: 2011/03/11
- メディア: CD
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そして、なんとここではロソリノ、歌がメインです。
ボーカルかい!
ほとんどの曲は2−3分で、頭のテーマと終わりのテーマを歌い、間の短いソロをトロンボーンでやっているような、ジャズ初心者の歌伴によくあるようなやつで。でも、実は歌はそんなに悪くはないのですけども、まぁCD買ってまで聴きたいようなものではないかなー。
何曲かでスキャットも披露しています。そのスキャットは、エラのような感じというよりはいわゆる「スキャットマンジョン」そっくりな雰囲気で、ま、いってしまえば、ロソリノの16分音符の速いパッセージそのものです。逆にこのスキャットを聴くことによって、シラブルでの滑舌のよさ、トロンボーンでの演奏の際のタンギングの強さがうかがえます。
しかしまあ、このCDは「ジャズ・トロンボーンの巨匠フランクロソリノ」史観でみると、封印されるべき黒歴史でしょうな。
あとの二枚は亡くなった年の演奏になります。

Trombone Heaven, Vancouver, 1978
- アーティスト: Frank Rosolino,Carl Fontana,Elmer Gill,Torban Oxbol,George Ursan
- 出版社/メーカー: Uptown
- 発売日: 2008/01/22
- メディア: CD
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正直にいいますとトロンボーン二人のバトルという盤で、音楽的に感心した経験がありません。どちらかというと「作品」というよりは「試合」なんですよね。
客に向いた視線ではなく、トロンボーン同士で閉じちゃっているわけです。ゆえに、実際にコンボトロンボーンの経験のある人以外には、ちょっとぴんとこない演奏なのではないかと思います。
しかし逆に言えば、コンボトロンボーンにとっては非常に参考になるわけで、テニス部員がウインブルドンの試合を見るようなものです。
丁々発止の好競演なのですが、ソロ演奏という意味ではおそらくトロンボーンが到達する最も高いレベルに到達している二人だと思います。曲もスタンダードが多く、コンボのトロンボニストにとっては非常に参考になります。もっとも二人ともハイノート・速いフレーズ連発で、コピーしても僕には吹けませんけれども。

- アーティスト: Frank Rosolino
- 出版社/メーカー: Sea Breeze Records
- 発売日: 2006/10/10
- メディア: CD
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6曲入っていますが、Misty Thought about you, Waltz for Dianeという3曲、そしてそれらの別テイク3つ。そういう意味ではこれ、ほとんどマキシシングルですね。
バックのバンドは60年代ブルーノートなどを経て醸成された70年代のサウンドで、それに対してロソリノも、ウェストコースト然ではない演奏をしています。Mistyは多分Bbで、ボサのリズムでやっているんだけども、非常にいい演奏です。今回買った5枚の中で、このMistyが一番僕は好きでした。1:Frank Rosolino Quintet ではロソリノのソロはリズムパターンにかなりガチガチに拘束されていたのですが、このMistyでは、そういう拘束感がなく、非常に自由な感じを受けました。
Waltz For Dianeと言うのは、はっきりいってFootprintsのパクリ丸出しですが、モーダルだというわけでもなく、それほど感じ入りませんでした(曲はそれほど悪くないのですが)。
* * *
さて、今回こういう感じでロソリノのCDを固め打ちでなんとなく買ってみました。
正直自分の中のロソリノのイメージは1:によるものが強かったので、今回色々聴き直すことによって、彼の良さを再認識するという意味では、意義があったのではないかと思います。
昔、自分がロソリノを嫌いだったのも、なんとなく腑におちました。そもそも、ロソリノのアドリブは、たとえ採譜できても、音が高すぎて僕には吹けないんです。零戦が、B-29の高度まで上がっていけないのと同じで、全く参考にならない。
で、そういう場合、メロディーラインというか、歌心的なアドリブラインをコピるというかパクったりするわけですが、ロソリノのソロは派手な割に、というか派手さでごまかせているために、アナリゼしても地味なところにはあまり見るべきものがないんですよね。おまけに、強いタンギングのアーティキュレーションが気に入らない、と。
しかし、こうやって時系列で並べてみましたが、Last Recordingが僕は最も好きでした。もう死んだあとに評価されてもしょうがないのですが、晩年の作品が最もよいというのは、ロソリノにとってはそう悪くないことではないかと思います。
ただ、人におすすめできるCDはどれかというと…… むずかしいですね。
Last Recordingはいかんせん曲も少ないし、ファンじゃないときついところがある。まぁ、チェットベイカーはSteeplechaseのがイチバンとか言うてる男のいうことですから。あまりまじめに受け取らないで頂ければ幸い。あと、3は絶対におすすめしません。でもそういうと上島竜兵の「押すなよ!押すなよ!」と勘違いして、実はいいCDじゃないかとか思うやつでてくるからなー。