半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『王様は裸だと言った子供はその後どうなったか 』森達也

王様は裸だと言った子供はその後どうなったか (集英社新書 405B)

王様は裸だと言った子供はその後どうなったか (集英社新書 405B)

 確かに新書ブームっていうのはあって、それに踊らされているような気がする。
本屋に行って平積みになっている本に目が留まって、なんとなく買ってしまった。マジシャンが「自由にカードを選んでください」とトランプを広げて差し出した時に、つい一番目の前に置かれたカードに手が伸びるようなものじゃないか。

 森達也が、昔話をたたき台にしていろいろ書いている本。

 昔話をふまえたこういう形式は、ま、斬新なようでいて斬新でもまったくないわけで、出版界の定番大喜利というか、そんな感じさえあって、むしろ陳腐だ。『大人のための残酷童話』 『政治的に正しいおとぎ話』などもあったし、古くは芥川龍之介の『御伽草子』から端を発しているというのは、作者が前書きでばらしてさえいる。

 逆にいえば、この新書はそういう形式に価値をおいているのではなく、敢えてこうした陳腐的手法をとることによって「森イズム」とでもいうべき森達也の思考をわかりやすく提示できるところに価値があるのだろう。森達也の言説はこういう新書を買うような、いうなれば土曜の夜には『ブロードキャスター』で山瀬まみの「お父さんのためのワイドショー講座」なんかを衒いなくみるような、自称読書好きな「日本のお利口さんな中流階級」にはあまり曝露されていないからだ。
 うん、新書の正しいマーケッティングだよね。

 ネットの文章を見慣れた身にとってはこの本の文章は過激でもなんでもなく、むしろ生ぬるい印象も受けるのであるが、こういう新書を読む連中に提示された文章の中では十分毒の強いものといっていいだろう。

「王様は裸だ」「桃太郎」「こうもり」「泣いた赤鬼」などは森氏の「A」から続く一連の活動のベクトルがほのみえる感じ。

新鮮だったのは「みにくいあひるの子」だろうか。この一項に関してはきわめて私小説的だ。

凡庸な台詞を口にした父親をしばらくみつめてから、コウセイはにっこりと微笑んだ。
「だめじゃんアンデルセン。他人の評価で終わらせちゃ」

嗚呼……

「ふるやのもり」も面白かった。普通童話をとりあげるっつったって、「ふるやのもり」にはいかんでしょ。
15編の中にはこういう企画を思いついてからピックアップしたとしか思えない、ちょいと苦しい項もあるのだが、ふるやのもりは、うまくできてる。





大人のための残酷童話 (新潮文庫)

大人のための残酷童話 (新潮文庫)

政治的に正しいおとぎ話

政治的に正しいおとぎ話