半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『ビブリオ漫画文庫』

オススメ度 60点
古本文化の蓄積あなどりがたし度 100点。

ビブリオ漫画文庫 (ちくま文庫 や 50-1)

ビブリオ漫画文庫 (ちくま文庫 や 50-1)

  • 発売日: 2017/08/07
  • メディア: 文庫

私の住んでいる街の少し近くに倉敷市がある。
昔から商都として栄え、今も古い家並みが美観地区に残る。
大原美術館など文化資本蓄積も多い粋なところだ。

この街で年に一度『倉敷ジャズストリート』というイベントがある。
数年前から参加させていただいていたのだが、今年はコロナで、いつも通りの開催はできなかった。
しかし主催者のアベニュウ店主松本さんの尽力で、今年は無観客動画配信での開催にこぎつけたのである*1
www.jazz-street.com
私はStay Blueというバンドで出演*2した。
そのために11月1日倉敷美観地区に赴いたのである。
出番は20分だが、無観客動画収録は、普段のライブとも違いかなり疲れた。
終わってやれやれと肩の荷をおろした気分になり、美観地区の名古書店蟲文庫』に立ち寄った。
mushi-bunko.com

最近の私は、実用性の高い本はKindle一本やりで購入している。
が、雰囲気のある古書店は、やはり人生を豊かにするのだなあと、考え直した。
古式ゆかしい店構え。静謐でほんのり趣味性の高い音楽がかかった、少しだけ埃くさい空間は、古本屋でしか体験できないものだと思う。*3

数冊適当に選んで*4そのうちの一冊がこれだった。

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ちなみに残りの本はこれ

ちくま文庫の、古本とか本に関する漫画のアンソロジー
冒頭は『コーヒーもう一杯』が印象的な山川直人の『三丁目の夕日』っぽい人情噺。*5
そのほか、つげ義春つげ義春っぽいし、水木しげるは水木らしく、諸星大二郎は諸星っぽい、本に関する不思議な話が続く。

* * *

アンソロジーなので、全体としての読後感はあまり強い印象を残さない。
が、昭和の古本を取り巻く時代状況がうかがい知れてよかった。
本というのは、こうでなくちゃいけない。

やたら高価な初版本や、レアな全集が高値で取引される現状は、しかし例えばどんどん過去のアーカイブKindle化されたりすると、後者については価値を大きく減損することになるんだろうな、とは思う。
だが、例えば今やCDよりもレコードの方が売れている時代だったりもするわけで、もう10年20年も我慢していたら、状況はまた変わってくるのかもしれない。
初版本などのプレミア、著者のサイン入り本などのブランディングは案外長続きするのかも。どうなるんだろう。

*1:このあたりの舞台裏は、私も直接は関わっていないが、苦労と試行錯誤の連続で困難を極めたようである。

*2:この話はまた別のところで書くかもしれない

*3:そういえば中井久夫先生が、エッセイで、コケというかカビというか、そういうものの効用を書いていた気がする。コケやカビには鎮静作用があるのではないか、という話

*4:こうやって好きな本を適当に買うことに躊躇いがない程度には収入があるのは、心底ありがたいと思う

*5:三丁目の夕日の人も、後半でてくる