半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『アマニタ・パンセリナ』中島らも

オススメ度 50点
その後の人生を考えると…度 70点

アマニタ・パンセリナ (集英社文庫)

アマニタ・パンセリナ (集英社文庫)

職場の人間関係、シリーズは一回おやすみさせてください。"Extreme Team" が意外に長かった…

母校の先輩、中島らも
Kindle日替わりセールで*1
最後は階段から転落し脳挫傷・硬膜下血腫で亡くなった破天荒人生であったが、アルコールだけではなく様々なドラッグに耽溺したなかで、数々の著作を生み出した。
まあ、どちらかというと20世紀のジャズマンにも通じる、20世紀の時代性を背負った売文人生だと思う。

この本は、そのものズバリ、そういうヤバめの薬や天然物(マジックマッシュルームやサボテン)の体験談。
そうした薬物の経験を通じて中島らもの前半生を振り返る。

薬物(テングタケや幻覚サボテン、オピウム、咳止めシロップなど広範にわたる)のそれぞれを体内に入れた時の実体験のレポートもすごい。
自らの変容を省察する感じが中島らもらしさの真骨頂で、こういう経験ないと氏の小説は書けないだろうなと思わされる。
けれど、読んでいて気づくのは、そもそもこういう薬物に対して、よく言えば興味津々、悪く言えば脇が甘い。
ちょっとした知的好奇心というには耽溺の質と量が深すぎる。
ヒッピーカルチャーの影響も多分に受けたのだろうが、ヒッピーカルチャーが去った80年代・90年代になってもスタイルが変わらなかったのが氏の不幸であるといえよう。

中島らもの人物交流の様子も、懐の深さというか開けっぴろげな快活さ(たとえ薬物に修飾されたものだとしても)がある。「清濁併せ吞む」ではないけど、いいものも、悪いものも区別しない。そして、斜め後ろから悪いものが氏に忍び寄り、心身を侵してしまう。

例えば経営コンサルタントとして公明な船井幸雄も「素直」という経営者にとっては確かに必要な要素を前面におしだした挙句、晩年にはスピリチュアルに行ってしまった。自分の目に見えたものを信じるという原点主義は、反面、テーブルマジックまがいのトリックで騙されてしまう可能性もはらむ。
結果、ある種の悪党には格好な標的になってしまう。(科学にはある種の「懐疑」が必要だから、経営者にもなんらかの科学的な精神が今は必要とされると思う)

それにしても中長期的な薬物耽溺の描写はやはり双絶なものがある。
アルコール依存症の人は自分の仕事でもよく出会うわけですが……いやはや。
そして、この本の最後は「もう酒は飲まずにやっていける」と未来を感じさせられる結びだったけど、最終的には酒もやめられず、早逝した。

これはアルコール依存症の人の典型でもある。
その時は嘘をついているじゃなくて、本心から言っているのだ。
ただ、行動の一貫性が保てないのだ。

*1:Kindle日替わりセールには時々中島らもの著作がでてくるね