半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『連チャンパパ』

オススメ度 90点
ナニコレ度 150点

これはKIndle Unlimitedで読みました。
最終巻までUnlimitedだったので助かりました。*1
ちょっと前からTwitterとかSNSで話題になっていた本。
軽い気持ちで読み始めて、完全に度肝を抜かれた。

絵柄はいわゆる「まんがタイム」とかのほのぼのファミリー四コマ(植田まさしとかね)っぽいやつなのだが、ストーリーはハード。
高校教師をやっている真面目な主人公の妻がある日蒸発してしまう。
なんでなんだ!とか混乱している主人公の元にいかにもな金貸しが、借金の取り立てにやってくる。
「お前の奥さん、有名なパチンコぐるいだったんだよ。町中知ってるぜ」
お金もないなか、夜逃げ半分、嫁を探し半分で、小学生の息子と一緒にパチンコ店を探し回る。

ということなのだが、最初はパチンコなんかしたこともなく、妻のパチンコを横でみていた息子の手ほどきを受けてやっていたのに、一巻の中程までいくと、ミイラ取りがミイラというか、主人公も立派なパチンカスに。
お金が足りない→パチンコで勝って返そう、という危ない思考回路。そして、お定まりの転落と裏切りの繰り返し。

パチンコで家庭が崩壊した謹厳実直な男性が、すっかりパチンコのためなら嘘もつくし、悪事も尽くす。
どんなことが起こっても、死ぬほど後悔したり、涙を流すようなことがあったとしても次のページではあっけらかんとパチンコを打っている。
という、薄ら寒い描写が延々と9巻まで続く。
完全にサイコパス*2

妻探しの旅は、あっさりとおわるわけもなく、オデュッセイアのように、各地の悪所めぐり。
パチンコによってすっかり通常の遵法意識や規範意識が飛んじゃった男性は、男女関係や金銭関係でもきわめてルーズな性格となり、地獄巡りのような逃避行と漂泊行を繰り返す。
付きあわされる息子(ちなみに種違いの双子も後に生まれる)も気の毒の極みだ。*3

まあしかし、パチンコ依存症の病理を描くという意味では、ものすごくよくできてる。
そういう意味では中島らもの『今夜、すべてのバーで』と並び立つ病理文学と言えなくもない。
halfboileddoc.hatenablog.com
名だたる文学者もアルコールやドラッグに耽溺しアルコールやドラッグの薫りをまとった文学作品は沢山あるけど、パチンコはあまり物語誘発性がないのか、パチンコ依存症をえがく文学は少ない*4と思うので、貴重だ。

* * *

私は多分依存体質なので、パチンコにはあまり近寄らないようにしている。
パチンカスの人々の行状は、確かに医療職であればしばしば目にするし、この漫画で描かれた世界に似ている感はある。
パチンコ依存症はどうもならんが、僕にとってパチンコ屋は、街中でうんこしたくなった時にお世話になるとてもありがたい場所でもある。
これ以上は悪く言えない。

*1:最後1/3くらい有料のパターンは、すごい腹立つのでやめてほしい…

*2:多分『ライオン仮面』状態で、締切に追われ描いてると、プロットに引きずられ、登場人物の深い省察などないんだろうなと思うけど、依存症的独特の感情の平板化と記憶の欠落みたいな独特なグルーブを生み出しているように思う

*3:出奔した妻を探して、逃げた男とベッドインしているところに親父と踏み込んだり、家を失った息子を不憫に思った小学校の女教師の家に父親も押しかけて、あろうことか教師を手篭めにしたりもする。そんなさまを間近で見せつけられるのだ。

*4:脇役はともかく主人公に据えるのは少ない