半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

モリのアサガオ

オススメ度 90点
関西弁の生々しさがよかった度 90点

モリのアサガオ1巻

モリのアサガオ1巻

何年前だったかな?ドラマ化を先にみた。
テレ東だったし、重い話題だったので、そんなに流行らなかった気がする。
それでも普通のドラマと違って異色なテイストだったので、全体の6割くらい視聴した覚えがある(僕は基本的にはドラマは観ない)。

エンディングテーマ椿屋四重奏「マテリアル」はなかなかいい曲だと思ったが、
椿屋四重奏はそのあとすぐ解散したので流行らなかった。
一度二度カラオケで歌ったが、あまりピンとこなかった。

椿屋四重奏 - マテリアル

この度Kindleのオススメにちらりとでていたので、懐かしく思い、読んでみた。
よかった。
全7巻という中編の作品であるが、
狂言回し役の主人公にも重いテーマがあり、複数のエピソードが錯綜しストーリテリングとしてはダレ場がなかった。
完成度の高い漫画だと思う。
ただ、絵柄はやや独特で、リアリズムよりも記号的な感じだ。

* * *

主人公は、検事を父にもつ新米の刑務官。
職場では、エリートのボンボン、という受け止められ方をしている。

主人公は、喜怒哀楽や、前提とする知識もなしに入職したような描写で、死刑囚の一挙一投足で考えがブレまくる。
読者を共感させるための、狂言回し役だから仕方がないのだが、それにしてもバカすぎへん?という感想ではあった。
振り回されすぎだろう。

そんな主人公も、同い年の死刑囚や、他の凶悪犯罪死刑囚とのやりとりを目の当たりにし、死刑執行に怯え、罪の意識に苛まれる死刑囚の行動を
み、また自分の運命にも気づかされ、成長してゆく。

「死刑」という超特殊なシチュエーションでありながら、共感を持ちやすいのは、我々の人生も「死刑囚」と同じで、命を失うその日を怖れて生きているからに他ならない。
死に怯える気持ちは普遍的なもので、また、自分が過去にしでかしたことを後悔し、過去の復讐に怖れるというのも、これまた死刑囚ならずとも我々に共通の感情ではある。
特殊から普遍を描く。こういうのは「アルジャーノンに花束を」とかと似たやり方だ。

結局我々が怖れているのは「死刑」ではなく「死」なんだよな。

* * *

ところで、死刑制度そのものの是非はかなり難しい。
現代の日本人の遵法意識や法感覚は、死刑ありきの現行法制度で構築されている部分もあるので、
これを変えるというのは、現在の法体系を完全にやりなおす覚悟がいると思う。

なんの臆面もなく正論を言えた若い頃は、僕も死刑廃止論に賛成であった。
ヒューマニズム?そういうやつ?

壮年である今は、死刑制度に全面的に反対、とは思わなくなった。
それは、どちらかというと、仕事では、適切な時期に死を迎えることを逸してしまった人の不幸をみることが多いからかもしれない。

死刑を執行しないとすれば、犯罪者はずっと生き続けなければならない。
死ぬまで。

だって「人生百年時代」だよ?
終身刑終身刑で結構しんどいだろうなーと思う。
老いて、自我が曖昧になり、最終的には寝たきりになって死ぬ。
刑務所の中で、どこまでのケアができるのか。
誰がケアをするのか?そこの線引きは難しい。
基本的人権の尊重ということになるなら、生活保護の生活レベルまで維持することになる。

死刑制度に乗っかってしまった人の運命は、僕も理不尽なものであるとは思う。
が、その理不尽さは、例えば取り調べが冤罪を産みやすい密室主義であることや、拘置所から死刑執行までの期間がまちまちであることなど、死刑執行に至る一連のプロセスにあると思う。
そこをある程度改善することによって、死刑制度そのものの理不尽さ・残虐さは緩和されうるのではないのか、とは思う。

逆に死刑制度が廃止され、なおかつ現在の無期懲役終身刑にかわったら、囚人の魂は救われるのか。
前述したとおり、刑務所で身体にいい生活していたら、その間結構長い時間を生きることになる。
まあまあの国費を費やして。

じゃあ、早期更生して社会に出る?
社会にでてきたところで、昔よりも社会の隙間が少ない。
刑期を終えた元囚人が社会復帰するのは多分昔よりも難しい。
SNSがこれほどまでに発達してしまったら、素性なんてすぐバレる。
刑期あけの生活は、昔よりも厳しくなっているような気がするし。
それこそ支援者がいたり、身を寄せる裏社会があれば、生きていけるかもしれない。
それもなかったら、野垂れ死ぬか、生活保護で生きることになる。

なんか、難しいよ。今の世の中。
昔より不寛容なのは確かだ。
一旦前科がついてしまうと、やすやすと更生させてくれない。

 そう思うと、自分が死刑囚である、と考えると、ケリつけてくれたほうがありがたいとさえ思える。

* * *

ということで、「なかなかいい話」やと思っていたんだが、Wikipediaでいろいろ調べていると、作者の郷田マモラ、その後アシスタントの女の子に強制わいせつ暴行で実刑判決(執行猶予だが)下っていたりして、人という生き物の怖ろしさを、改めて感じたりもした。
人の世は難しい。