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『脳はなぜ「心」を作ったのか 「私」の謎を解く受動意識仮説』前野隆司

オススメ度 80点
はやくKindle化してください度 100点

脳はなぜ「心」を作ったのか「私」の謎を解く受動意識仮説 (ちくま文庫)

脳はなぜ「心」を作ったのか「私」の謎を解く受動意識仮説 (ちくま文庫)

前野隆司先生は、昨年の当社の社内講演会に呼んで講演をしていただいた方。
「幸福学」という研究テーマの方。
あ、幸福の科学ではないですよ。
幸福学は、「幸福」というものについて、工学的にアプローチしているのが特徴。
幸福でいられるには、どうすればいいのか、という学問。
哲学や宗教は「幸福とは何か?(What)」から始まるものだが、
幸福学ではHow(どうすれば)から出発しているのが、実践的でいいと思う。

* * *

話を戻す。
この本は現在の「幸福学」というジャンルに行く前の、脳のシステム論をやっていたころの前野先生の本。

「心」「意識」というものは、何か?
機械や動物に心はあるのか?
という、これも哲学的な問いに対し、
脳科学や工学的なアプローチで、考察している。
どうもこの先生は、こういう本来文系っぽい分野の領域に、理系の方法論を持ち込むスタイルが得意。
四角い仁鶴がま るくおさめまっせ、みたいに、Techの前野がリベラルアーツを攻めまっせ、ということなのだと思う。

* * *

結論は『「心」というものは幻想である』という衝撃的な内容。
もう少し補足すると「意思決定を行う『自分』という主体」は幻想にすぎないということ。

自分なりに、前野氏の論をかみくだく
「頭の中では『心を持つ自我』がすべてを決定している」と、我々は普段考えている。
が、自我は会社の社長みたいなもので、社員(文中では「小びと」と表現)が用意してきた資料を見て、それらしく判断をした、と思っているだけ。
細かいところは、多くは社員(無意識下のニューラルネットワーク)が決めているのだが、社長は「自分が一意的に決めた」と思っている。
そんな感じ。
意識=会議というより、「意識=会議の議事録」と認識した方がよいのではないかということで、
意識の主体である「社長」に、すべての思考力・判断力が付与されていると僕たちは思っているけど、社長は代表なだけで、何も具体的な能力がない。そういう能力は無意識かの社員が持っている。
もし社員と切り離されてしまった社長は、多分ホワイトノイズのなかで一人佇んで、何も考えられないだろう。
そんな感じか。

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ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

伊藤計劃の絶筆に「ハーモニー」という作品がある。
ネタバレもあれだが、これは、すべての人間の心から「意識」「心」が消える、という話だ。
心がなくなっても、多分確かに人間世界は、変わらないかもしれない。

「ハーモニー」の思考実験は、前野さんのこの本と、奇妙な相似がある。