半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『「産業革命以前」の未来へ』

オススメ度 80点
頭の中が「超整理」されました!度 100点。

超整理法の野口先生だが、

近代は、今はない家電や車などの耐久消費財を大量生産を行って市場に届ける必要があったために、生産・流通に関しても垂直統合を行って、大規模な工場を運営するスケールメリットがあった。産業革命は、垂直統合化・集権化・組織化が進展した。
だが、これからは、近代の巨大ものづくり企業のメリットは低くなり、1990年代から垂直統合から水平分業の流れが加速している。
中世のものづくりのような、小規模なファクトリーが、分権的に振る舞うのではないか、市場の要求にこたえる品を小ロットで作っていく、というスタイルに戻るんじゃないか……
という話。

そもそも産業革命に先立つ大航海時代こそが、起業家精神によって駆動された社会現象であったという指摘も興味深い。
マゼランの世界一周はたかだか小舟5隻で300人程度の船団規模であったが、同時代、明の鄭和による外洋航海は巨大な船舶と一万人規模の人員で行われた。規模で言えば圧倒的に中国文明圏の方が勝っていたのだ。
ただ、鄭和の世界航海は、帝国の志威事業として行われたため、航海そのものが目的化していたため、明の対外政策が方向転換すると発展なく終わってしまった。
対照的にヨーロッパでは、投資家から資金を募って決行される、ある種の航海事業であったため、継続的な発展につながった。もう少し細かくいえばスペイン・ポルトガルの植民地化は現地の特産品収奪とプランテーションが主で、イギリス・オランダのように交易を主目的としなかったため、発展しなかったという。
起業家精神がその後の経済発展に必須であるということが強調された。
(このあたりはこの前の世界システム論に共通しているところが多かった。)
halfboileddoc.hatenablog.com

現在日本の内向き志向というのは、そういった大航海時代のマインドと対照的であり、望ましくないのではないか…と危惧する筆者。
GAFAはともかく、ポストGAFAを狙う企業を「ユニコーン企業」というらしいが、日本発の企業が非常に少ない。

また、ソーシャルレンディング、ヒットソングサイエンスなど、最新の技術とAIの関与に関しても述べており、例えばブロック・チェーンなどのテクノロジーは、集権化ではなく、分権化に向かうのではないかと未来予想をしている。
それに対して中国のありようは、日本とはかなり違っていて、現在の技術革新の波をうけて企業が成長発展する素地が整っているんじゃないか、日本ガンバレ。

いずれにしろ、世界の中での日本のスタンス、というものをもう少し考えないと、このイノベーションの波に取り残されてしまうだろうと、僕も思う。

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平易な語り口で、わかりやすいが、内容は示唆にとむ。
この方もやはり思考が整理されているなあと思った。