半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『ユニクロ帝国の光と影』横田増生

オススメ度 80点
むしろZARA縁なかったけどちょっと行ってみようかなと思った度 80点

ユニクロ批判の一連の書籍のある筆者。
すこし古い本ではあるけれども、リーマンショック以降、ユニクロが快進撃を続けていたときに書かれた本。

わかりやすい「アンチユニクロ」の本なんだと思っていたら、かなり綿密な取材をしていて、いい面も書こうとしているので驚いた。
ユニクロの戦略、同業他社に比べての優位性、SPAモデル*1としての特徴、生産工場である取引先の中国の工場の取引のノウハウなど、かなり深く情報を得て、書かれた良作だ。

反面、組織としての欠点や、離職が多い職場環境などについてはどうしても批判的な視点ではあり、最終的にはユニクロ創始者柳井正の人格とか、属人的な部分に踏み込まざるをえない。

ただ、経営者視点でどうしても僕などが読んでしまうのだが、柳井氏の経営手法はやはり卓越はしており、だからこそここまでの企業に成長することができた。
仕事がら高齢者に接することが多い私も、自分の顧客のユニクロ着用率はとても高い。
日本の多くの高齢者は今やユニクロに生かされているような有様であり、「国民服」を作った功績は大きいとは思う。

しかし、組織のあり方からいえば、わかりやすくいえば、柳井氏のスタイルは「オリエント君主」的であり、多分に属人的だ*2
そこが筆者の批判するところなのだが、それは仕方がないところだと思う。過度な危機意識、No.2を育てられない彼の性格(任せられない)など、このままではいかんのではないか、という意見は、確かにまっとうではあるのだが、ビジネス手法そのものに彼の性格が色濃く表れているのは仕方がないことだと思う。いい面と、悪い面と、相殺して現在のユニクロの大企業化があるのだから。
ただ、柳井氏も高齢にはなりつつある。あれだけの巨大企業がどうなっていくのかはわからないが、代替わりは必須であるし、継続性が期待できる組織になるには「ローマ」のような組織のありかたが求められると思う。

生い立ちを追いかける「小郡商事」時代のエピソード*3ユニクロと対照的なビジネスモデルを追求するZARAの取材など、ふむふむと思えることも多い懐の深い本だった。

しかし、組織の属人性、耳が痛いな。私の組織も、属人性を廃しきれていない。
まあユニクロのような快進撃などもしていないんだけれど。

*1:SPAはSpecialty store retailer of Private label Apparelの略で、この形態の嚆矢はGAPだそうだ

*2:オリエント君主的な専制君主にしては、報酬はささやかなものではないか、と思ったりもする。まこの辺は意見の分かれるところだけど、あれだけの会社規模ですからね。ZOZOの人よりは地味だと思いません?

*3:柳井氏父は割と裏社会とのコネも多かった人のようだが、ユニクロの経営は殺伐としているものの、クリーンさを貫いているのは柳井氏の清潔感なんだと思う。もっと褒めていい。