オススメ度 70点
わりとげんなり度 80点
- 作者: 吉村昭
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1974/02/26
- メディア: 文庫
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吉村昭さんというと、戦死もの、歴史もの、そしてヒグマもの(そんなのないか)で有名な写実系の作家。
そんな吉村さんの初期の作品。太宰治賞を受賞したらしい。(というか太宰治賞ってあったんだ…)*1
6編の短編集。一部連作になっている部分もあるが、そのすべての作品で死の影が濃い。
そもそも昭和20年から30年のあたりは、今と違って国民皆保険でもない。
お金がない人は、病気をこじらせると生活できない。
若年者でも貧乏だったらあっけなく死ぬ。
そのような時代精神を色濃く反映している。
社会全体も若いため、死や病は、貧者だけに色濃く漂っている。
そう思えば、今の貧困って、生活保護なども含めて手厚い社会保障だとは思う*2
今は高齢化社会で、すべての階層に老いと死が平等に(もちろんいささかの不平等はある)訪れる。
「カタギ」の生活から、そういった低層の根無し草的な生活の間には相当の懸隔があり、ちょっと気を抜いて、もしくはなすすべもない力で、どんどん社会階層を落ちてゆくと死や病気・暴力の漂う世界。
今に比べると「落ちる」ことは相当の恐怖があるだろうなと思う。
でも、予備校に通えなくて、不登校のようになっている青年達が、なんとなく群れて自殺旅行へ旅立つなんてモチーフは、現代にも通じる話だと思う。
ほぼ戦時中の作者の生活を切り取ったような「白い道」も味わい深い。
吉村昭は、戦記もののように事実を元に書く作家だと思っていたが、このような創作も初期は手がけたのか、と思うと、かなり意外。
例えばジャズのミュージシャンで、晩年はスタンダード曲集のような作品を出している人が、デビュー当時は全曲オリジナルのアバンギャルドな作品を作っている人をみたような気がした。
んーと、Kenny Drewとかそんな感じですかね。
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