- 作者: 小谷野敦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/02/01
- メディア: 単行本
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現在の文筆家は、自分の得意な分野だけでなくて、不得意な分野でも、お声がかりがあれば本を書いて飯の種にしなければいけない、ということなのだろうか。もっとも、我々医者だって、専門分野だけ見ていればいい…とはいいつつ、便秘症とかめまいとか、専門外の診療もできなければいけない、というのと同じこと…なのかしら?
「歴史に詳しくない人に歴史入門の紹介をする」というお題で一冊書いた、あの小谷野氏が。
映画「キンダーガートン・コップ」のようなシチュエーション・コメディーを狙ったんだろうか。 基本的には入門書という本にありがちなリーダーフレンドリーな感じをまったく出さない小谷野氏は、こんな入門書でさえも偏屈さを漂わせることができる稀有な書き手であると思う。
先生が大多数に向けて喋っている口調ではなくて、モノローグなんですよね。いや、書いてて今気づいたんですけど、「入門」ということで書いてある文章の多くは、ダイアローグなんだ。逆にいうと、「入門」の必要条件は、ダイアローグということなのか。実際に世界史のことを知らない読み手には伝わりにくいのかもしれない。
でも、入門書がダイアローグでないといけないなんて、誰が決めたわけでもない。だから小谷野氏がこの書き方で書くのは間違ってはいない。昔からあるちゃんとした書物は、みなモノローグなわけだから。
いや、公平に読めば、どの分野のこともきもまんべんなく、そして映画とかを引き合いに出して紹介するなど、結構注意深く、わかりやすく書かれていると思う。ただ、態度が偏屈なだけで(笑)
これは、「世界史とかの知識が一般人に欠けているよなあ」といつも苦々しく思っている中途半端な知識人(え?僕のこと?)が、なんとなく溜飲を下げるために読む本と考えるべきかもしれない。 つまり、入門者に向けて書かれているわけではなくて、入門者に向けて小谷野氏が教えている、という状況を楽しむ本、と考えたほうがよい。
ほら、謹厳なおじいさんが、孫をあやす時に、照れて使う赤ちゃん言葉をはたからみる面白さというか。
新書というのは、そういうものなのかもしれないが、この本はさすがに時間を掛けて練り上げられていないと思う。テキストのすみずみまで注意が行き届いている文章は、読めばわかる。小谷野氏が時間を掛けて書いた本はさすがに堅牢な文章であるが、この本にはそういう密度や端正さがない。
端的に言うと「売文モード」で書かれた本で、小谷野氏も、だんだん売れっ子になってきたということだろうか。
独自の着眼点で切り取った力作の方が全然売れなくて、こういう本の方が売れちゃうっていうのも、文筆家にとっては、なんつーか矛盾だよなーと思う。