- 作者: 内田 重久
- 出版社/メーカー: 文芸社
- 発売日: 2011/10/05
- メディア: 文庫
- クリック: 4回
- この商品を含むブログを見る
- 作者: 内田 重久
- 出版社/メーカー: 文芸社
- 発売日: 2011/10/05
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る
取り上げている舞台からもうかがえるとおり、非常に地味な一作である。
また表紙は『課長バカ一代』の野中英次的な単色の人物画。装丁もまことに地味である。
だがこれが案外面白かった。
基本的には蜀側は姜維、魏側の鄧艾という攻守それぞれを主人公にすえた構成となっている。しかしそれぞれの先代、司馬懿と孔明と違って、彼らは、それぞれの国の中で中心的な人物とはいえなくなっており、それゆえに、魏・蜀の戦い自体の優先度が低くなっている。
蜀の北伐は画餅と化していたし、魏の対蜀作戦は、数々の政治的課題の一つに過ぎない。
それゆえのシラけた感じとか、そういうのがリアルといえばリアルに思われる。
定本の三国志演義にありがちなドラマっぽさはないけれども、淡々とした歴史のリアリティがあり、個人的にはかなり面白く読めた。
これはおそらく、私が三国志演義のような華やかな歴史の俎上に活躍しているわけではなく、地方で、華のない平凡な生活を送っているからに違いない。作者も専業の作家ではなく、この時代に目をつけたのも作者の華のなさに大いに依存しているのかもしれない。
下巻、蜀滅亡後の各人の心理は、まるで枯野抄のような、丁寧な群像劇で、ここから鐘会の反乱までは、この小説の中での白眉であると思った。