半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『鍵盤ハーモニカ 100のコツ』

今週、「100のコツ」の本を二連発であげていたんです。
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Amazonで他にも100のコツ的な本ってどれくらいあるのかな…と検索していて目にとまりました。
(あと、100のコツというと、同じ形式で作られたくだらない健康本がまあまあヒットする)

私は中学の頃からトロンボーン。そして最近はジャズピアノをやっている。
しかし幼少期にピアノやっていなかったので、その前身として、2007年くらいから2012年くらいまでピアニカをやっていた。
ピアニカでチェロ独奏曲とか練習して、動かない指を鍛えた記憶があります。

その時に、著者の松田昌さんのことは認識していた。
両手持ちですげえ演奏する人。
youtu.be
目見えている人なのに、なんだか座頭市然とした雰囲気のある人です。

その「ザ・ピアニカ」の人の教則本。ちなみにKindleで。

読む部分が多く、初学の時のくだくだしい部分は少ない。
これはそれなりに音楽やっている人がピアニカにコンバートした場合に有用。
ピアノやってた人とか、吹奏楽で管楽器やってた人とか、そういう人にはめっちゃ便利なはずだ。
反対に音楽そのものの経験がなく、楽譜も読んだ経験がない場合は、初学用の入門本が別に必要だとは思われる。

奏法の注意とか、アドリブ演奏の際のフレーズやスタイルに対するTipsとか、メンテナンス、基礎練習法などなど。
内容は、ピアニカ奏者としてのTipsにあふれている。
それにしても、ピアニカは弱音楽器なので、ppでのロングトーンに心臓の鼓動が反映されるというくだりにはシビレタね。

コロナ禍で、たとえば吹奏楽やオーケストラとか出来ない人も多いと思う。
ピアニカを触ってみたい人には有用ではないかと思った。

しかし、ピアニカは、思った以上に音がうるさい。
家ではけっこうきつい。サックス並なので、多分すぐ苦情が来ます。
演奏時間は限られると思う。
あと、ピアニカってハーモニカと同じで数ヶ月でピッチがかなり狂うんです。
これはしかし交換用リードプレートの話とかにも触れているので、
僕も死蔵しているピアニカ、リード交換をしようと思いました。

* * *

ちなみに音楽系の100Tips系としては、ジャズギタリスト布川俊樹さんのこれもいいですよ。
ただもう廃盤で中古品しか出回っていません。
布川さんはYoutubeでの音楽講座もまあまあ楽しいので興味ある方はYoutubeから。

『やくざときどきピアノ』

ヤクザときどきピアノ

ヤクザときどきピアノ

『サカナとヤクザ』『ヤクザと原発』などで知られる鈴木智彦氏が、おとなになってピアノを弾きたいなと思い、一念発起してピアノ教室に通い、かわいい顔して達人であるレイコ先生の手ほどきを受けて、ABBAの『ダンシング・クイーン』を弾くまでのドキュメント。

この前の「GAFA部長」と同じく、この人は「ヤクザ」を自分のアイコンにしているんだなー。

長い本ではないし、中年男性のビルドゥングスロマンとして、感動があった。

ピアノ教師レイコ先生の描写がとても魅力的であった。
ピアノが弾けるようになる、ということはどういうことか?
できないことが出来るようになる、というのはどういうことか。
そういうことを考えさせられる本であった。

  • ピアノを弾くのに感情を出し惜しみしないこと。
  • ピアノを弾こうとしなければ、俺は死ぬまで音楽の奥行きに気が付かなかっただろう。
  • 上達の度合いは違う。才能の違いはどうにもできない。でもね、練習しないと弾けないの。弾ける人は練習をしたの。難しい話じゃない。

私も、家を建ててピアノを購入してから、ちょっとジャズピアノに力をいれている、遅咲きのピアノおじさんなので、この気持ち、よくわかるよ……。
だんだんと出来ないことが出来るようになってゆく。世界が広がる。
そして、今まで漫然と聴いていた演奏の、観るべきポイントが変わる。
すなわち、世界の見えかたがかわる。

音楽は人の人生を変え、人生を豊かにする。
僕もそう思う。


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ジャズで人生を変た大江千里のニューヨーク生活録。
ポップスとして名を成した人間が、いちからジャズ・プレイヤーになるなんてことがあるのか。
それがジャズの持つ魔力のようなものかもしれない。
アメリカのジャズの学校では当然ながらAny Keyでスタンダードの練習をするということで、大江千里は四苦八苦しているさまに、僕は戦慄しながら、そりゃそうだよなとAny Keyの練習を家でもやっている。吐きそうなくらいしんどいときもある。

* * *
実際の鈴木氏の発表会画像がこちら。

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全く話はかわるけど、ピアノ経験ない漁師が独学でラ・カンパネラ弾けるようになりました、っていうトンデモナイ話もあるわけである。それがこちら。

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『バット・ビューティフル』ジェフ・ダイヤー 訳村上春樹

バット・ビューティフル

バット・ビューティフル

実に久しぶりに紙の本を買う。
最近はほとんどの本をKindleで買うから。

久しぶりの紙の本は、買ったばかりのときに本の中ほどに綴じ込まれている紐を取り出すのにも時間がかかった。
本を持つ手の平の筋肉もやや落ちているのか、長いこと持ち続けると疲れてしまう。*1
しかし、ページをめくろうとして、無意識に指をつつっと滑らせて、スワイプしてしまったのには笑ってしまった。
ちょっと、それはいかんよ!本の虫だった昔の俺に怒られそうだ。

いろんなジャズマンのポートレートを切り取ったようなアンソロジー
レスター・ヤングから話は始まる。
戦後アメリカ音楽の中核を担った音楽、ジャズ。
しかしジャズの担い手たるプレイヤーは、社会の中ではアウトサイダーであり、終わりのないツアーとドラッグ・酒・女、暴力などありとあらゆる快楽の中で生きていた胡散臭い連中であったのだ。

レコードから垣間見える音楽そのものは、十分美しい。
なのに、それを手掛けるミュージシャンの多くは腐臭を放つ汚辱にまみれた人生だったりした。
公民権運動が盛んになる前は、クラブでは拍手喝采を浴びるミュージシャンが、路上では白人警官に小突かれる。

そしてフリージャズ・クロスオーバー期を経て、一旦はそういう形のジャズは絶滅したわけである。

新主流派新伝承派といわれる人たちがそういったジャズをクレンジングし、芸術としてのジャズのパッケージ化に成功した。
いつしかジャズはファイン・アートになった。
若くやる気に満ちたミュージシャンは、何十時間も修練を積み、音大のジャズ科に通ったりしてジャズを習得する。

しかし、歴史が作られた1960年までのアメリカの音楽の現場は、そういうものではなかったはずだ。
この本は、そういう空気感を伝えてくれる。

私はジャズにひとかたならず首を突っ込んでいるせいで、公平には読めない。
聖と俗の潮目のような部分でジャズという音楽が形成されたという歴史的事実は、しばし忘れがちになるので、単純にジャズに憧れる人は、読んだ方がいいんじゃないかと思う。

ジャズマンは早く死ぬのではない。早く年老いる。

寂寞とデカダンスの漂う、危険なジャズの香りを味わいたい人は是非。
多分そんなに読みやすくないのだろうが、村上春樹の訳という点で、やや得をしているかもしれない。

*1:親指と人差し指の間が、ひどく疲れてしまった

『労働なんかしないで光合成だけで生きたい』スガシカオ

オススメ度 100点
タイトル…度 100点

ちょっと調子が落ちているので、無理せず、手近なものを書いていこうと思う。*1

僕はおじさんなので、新譜とかでてもすぐにフォローしたりしてなくて、思い出した頃に買う。
一度メジャーをおり、インディーズで活動し、そしてまたメジャーにもどってきたスガシカオ

去年だした新譜をようやっと買った。しかし、タイトル…
知人女子は「いやほんとそう!私の理想の生活をタイトルで言い切ってます!」と力説していたが、まあしかし、タイトル長いよな。

2010年代は、これが流行り、こういう長いタイトルが流行った時代だということだ。10年後に振り返ったらどんな感想を抱くのだろう…

内容は、いつものスガシカオ節で、スガシカオスガシカオらしさを煮詰めたサウンドで、大変ゴキゲン。
スガシカオスガシカオらしらについては、下記参照。これも15年前か…)
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今回はホーンセクション(Fire Horns)の絡みも多くて、ホンセク好きの私にとってはとても嬉しかった。
車で聴いたらついついアクセルを踏んでしまうという点で問題作。

ちなみに私はカラオケでスガシカオをよく歌うのですが、スガシカオは声がかなり高い。
僕も音域的にでないわけではないけど、原曲キーで歌うなら、声を張らないとでない。
そうすると、スガシカオの高くて抜けた感じにならないので、今ひとつおもしろくない。
(ま、これはファルセットの出し方が下手なんだと思うけど)
なので、-3か-4くらい思い切ってさげると、抜けた感じで歌えるのでオススメです。

*1:台風の影響か、それとも季節的なものか。私はだいたい秋に調子を落とし、クリスマス前辺りが最悪になる

『スタインウェイ戦争』

休日なので、ちょっと趣味のコーナーで。

オススメ度 100点…

コロナでみな在宅を強いられているので、Bookcover Challengeが流行っている。
チェーンリレーなので、指数関数的に増えるという点で私はあまり賛成していないのですが、友人の愛読書を知るという意味ではかなり興味深く、面白そうな本を随分紹介してもらいました。

そのうちの一つ、市内の医師会のK先生が紹介されていたこの本。
さっそくポチってみたわけです。

ピアノの銘機、スタインウェイ
実はスタインウェイにはヨーロッパで作られる「ハンブルグスタインウェイ」と「ニューヨークスタインウェイ」の二つがある。日本にはハンブルグスタインウェイが輸入される慣習になっていたのだが、その輸入には一つの楽器会社(松○楽器)が代理店となり、調律やメンテに関しても完全にその楽器店が独占する状況が続いていた。らしい。
まだ「スタインウェイ・ジャパン」もない時代の20世紀の話。

今ではこうした特殊な状況は改善されていると思うが、その独占体制に敢然と立ち向かったのがこの本の主役、高木氏であるらしい。
語りの書き起こしという自伝なのであるが、その孤軍奮闘はとにかく痛快だった。もちろん片側からの話でしかないことは留意しておく必要はあるだろうけど、圧倒的優位の松○楽器が、最終的には公取委に怒られ、高木側の勝利に終わる。
確かに今はこういうの少なくなったけど、昔ってこういう抱え込みとか独占って、結構えげつない締め出しはあっただろうと思う。

高木氏と、松○楽器、双方にも言い分はあるだろうけれども、決め手は「どれだけピアノが好きか」という熱量だと思う。もうそれは高木氏の圧勝。そしてピアノに対する情熱と技術へのあくなき追求心…ビジネスはやっぱり情熱が強いやつにはかなわない。
医療もそうだけど、商売上手であるより、医療をよく理解し、技術を極めた自分の医療分野に自負のある人に任せたい、って思うもんな。ひるがえって、自分にはその情熱がきちんとあるかどうか…技術とアートの前では人は謙虚にならないといけない。

しかし令和の現代でも、ここまでコンプラ違反ではないだろうけど、寡占されているマーケットなんていくらでもわけで、どんな分野でも闘っている人はいるんだろうな。

* * *

実は私の家にもNY.スタインウェイがある*1
高木氏が先陣を切って独占体制を崩したおかげで入手しやすくなったのだろうと思う。
スタインウェイ・ジャパンによる全国の管理体制もできているし*2、まあこれは昭和の黒歴史の一つなんでしょうね。

私はトロンボーンも吹くし、最近はピアノも触るのだが、トロンボーンというのは自分の心の中の「音」をそのまま伝える楽器。だけど、ピアノというのは、ピアノに人格というか妖精でもいるのかという感じで、ピアノと自分の共同作業って感じがする。出てくる音は、自分だけのものじゃないんだよな。いい楽器はやはり楽器の方からアイデアやヒントがおりてくる感じがします。その点ではピアノってかなり特殊な楽器だと思う。

*1:K先生のところにもあるらしいし、調律は高木氏に頼んでいるらしい。スゲー…

*2:うちのピアノは、知り合いの調律師が気がつくとスタインウェイ専属の調律師になってらっしゃったので、そのつてで購入した

『パリピ孔明』

転生ものを一捻りしたやつ。
三国志で有名な諸葛亮孔明が現代に転生する。しかも渋谷のクラブ。

歌のうまいEIKOに拾われた恩に報いるべく孔明が軍師となってEIKOをプロデュース!
みたいな話。

転生ものなので、異世界のギャップ。しかしこの場合異世界が現代、ということになる。

孔明ならではの現状分析そして対策というのが理詰めで語られて、音楽シーンにおけるマーケティングブランディングを、孔明がバックアップする、という。
うん、まあうまいよね。設定の勝利かな。

* * *
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ちなみにパリピ孔明氏は劇中この「星型」のサングラスをかけていますけれども、
この星のサングラスはブーツィー・コリンズのアイコンというのはみんな知っていますよね?

ブーツィー・コリンズは例えば表のソウルスターがJBことジェームスブラウンだとすると裏スター、みたいな人。ベース。
なんかうわっついた背中が痒くなるようなサウンド


Bootsy Collins - Bootzilla (1978)

レキシの"キラキラ武士"でもでてきますね。

レキシ / きらきら武士 feat. Deyonna
ボーカルdeyonnnaは椎名林檎です。
3:40のとこね。歌詞も 

"メガネが星 Bootsy ? 武士 "

と 芸が細かい。
それにしてもこのPVの女の子、めちゃめちゃ魅力的ですね。カラオケではこのofは収載されていないのが惜しい。


Bootsy Collins僕結構好きなんですけど、例えば車の運転中にかけると、なんか事故っちゃいそうで怖いです。逸脱をうながす何かがあるね、あのサウンドには。

"Big Sun" Chassol

Big Sun

Big Sun

  • アーティスト:Chassol
  • 発売日: 2015/05/18
  • メディア: CD

このまえ地元の人とZoom飲み会をした時に、音楽の話になって出てきたもの。
私は割と狭めの"ジャズ村"の住人。(演奏者も兼ねているとどうしてもそうなるし、新しい音楽には注意を払うにしても、全方位的にはなれない)
割と広く色々なジャンルにアンテナを張っている人のキュレーションはとてもありがたいですね。
早速聴いてみた。なるほどーそういうことか。

Chassol(シャソール)はフランス出身のミュージシャン。
高度な音楽教育を受けた人の常として絶対音感があるのでしょう。絶対音感がないと絶対できないスタイルの音楽。
例えば、絶対音感の人って、救急車のサイレンが「シーソーシーソ」とか、鳥の鳴き声が、ミだよーとか言ってくれるじゃないですか。
あれをさらに突き詰めて例えば市場での売り子の口上をメロディーにしてそこから曲を展開する感じ。
ま、どうしても無調音楽ぽくはなりますが。

わかりやすく言うと「日常空間と音楽との共存」という命題を、
例えばソニーウォークマンとは別の形で実現している。
あれは、我々の生活に既存の音楽を重ねると世界が全く違って見えますという方法。
対して、Chassolは我々の「生命の音」をそのまま音楽にトランスクライブできないかというやり方。
 生活音と同時に脳内で音を重ねて音楽を脳内で構築しているようなものだ。
口さがなくいっちゃうと、きわめて統合失調症的な手法ではある。


日常空間と音楽の相違と共存、は古くて新しい話ではある。
そもそも古典音楽も、題名は何らかの我々の生活の主題がつけられており、昔の人も、リアルライフの何かをイメージして音楽を構築していることは確か。
「熊ん蜂の飛行」なんてやつは、実際楽器で、蜂のブンブン音っぽい感じを表現していますよね。
現代音楽ではこの手のアプローチは常套句で、古典音楽から現代音楽の移行期、無調音楽音楽の形式論を逸脱するために、理論的な考察が繰り返された。
それはまた言語学の音韻論と音響論、とかシニフィエシニフィアンとかラングとパロールとかそういう話にも繋がってゆく。
こういう話は僕のちょっと上の世代のニューアカ的な世代では随分議論されたはずだ。
ただ、それが何かを生み出したかと言うと、よくわからない。
着地点が見えず哲学の枝の中では刈り込まれた枝になってしまったように思う。

僕も、オリヴィア・メシアンが、鳥の鳴き声をスケッチして作曲に生かしていたという話は知っているけど、それが結局音楽の根本構造を超えるにいたるインパクトを生み出したかどうかは知らない。ただChassolを語るにはそうした「音楽」の枠をうちやぶろうという系譜は踏まえておいた方がいいだろうな。

私は商業主義音楽人間なので、個人的には「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のBjorkの 工場の音からミュージカルに行こうする "Cvalda" とか*1には、同じ方法論を感じる。

Björk - Cvalda (Dancer In The Dark)

とか、「おぐちゃん」こと小倉久寛が笑っていいともでやっていた「クイズ サックスは最高」を思い出します。
youtu.be
と、いいますか、おぐちゃんもタモリ南野陽子鶴瓶もみんな若い!

*1:このシーンはすごくゾクゾクするけれども、正直この映画はこのシーン出てきたあと五分くらいで観るのやめた方がいいとは思う。