- 作者:ジェフ ダイヤー
- 発売日: 2011/09/01
- メディア: 単行本
実に久しぶりに紙の本を買う。
最近はほとんどの本をKindleで買うから。
久しぶりの紙の本は、買ったばかりのときに本の中ほどに綴じ込まれている紐を取り出すのにも時間がかかった。
本を持つ手の平の筋肉もやや落ちているのか、長いこと持ち続けると疲れてしまう。*1
しかし、ページをめくろうとして、無意識に指をつつっと滑らせて、スワイプしてしまったのには笑ってしまった。
ちょっと、それはいかんよ!本の虫だった昔の俺に怒られそうだ。
いろんなジャズマンのポートレートを切り取ったようなアンソロジー。
レスター・ヤングから話は始まる。
戦後アメリカ音楽の中核を担った音楽、ジャズ。
しかしジャズの担い手たるプレイヤーは、社会の中ではアウトサイダーであり、終わりのないツアーとドラッグ・酒・女、暴力などありとあらゆる快楽の中で生きていた胡散臭い連中であったのだ。
レコードから垣間見える音楽そのものは、十分美しい。
なのに、それを手掛けるミュージシャンの多くは腐臭を放つ汚辱にまみれた人生だったりした。
公民権運動が盛んになる前は、クラブでは拍手喝采を浴びるミュージシャンが、路上では白人警官に小突かれる。
そしてフリージャズ・クロスオーバー期を経て、一旦はそういう形のジャズは絶滅したわけである。
新主流派・新伝承派といわれる人たちがそういったジャズをクレンジングし、芸術としてのジャズのパッケージ化に成功した。
いつしかジャズはファイン・アートになった。
若くやる気に満ちたミュージシャンは、何十時間も修練を積み、音大のジャズ科に通ったりしてジャズを習得する。
しかし、歴史が作られた1960年までのアメリカの音楽の現場は、そういうものではなかったはずだ。
この本は、そういう空気感を伝えてくれる。
私はジャズにひとかたならず首を突っ込んでいるせいで、公平には読めない。
聖と俗の潮目のような部分でジャズという音楽が形成されたという歴史的事実は、しばし忘れがちになるので、単純にジャズに憧れる人は、読んだ方がいいんじゃないかと思う。
ジャズマンは早く死ぬのではない。早く年老いる。
寂寞とデカダンスの漂う、危険なジャズの香りを味わいたい人は是非。
多分そんなに読みやすくないのだろうが、村上春樹の訳という点で、やや得をしているかもしれない。
*1:親指と人差し指の間が、ひどく疲れてしまった