半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『遊郭成駒屋』神崎宣武

聞書き 遊廓成駒屋 (ちくま文庫)

聞書き 遊廓成駒屋 (ちくま文庫)

Kindleで購入。
民俗学者が、たまたま取り壊し中の名古屋にある遊郭に出くわし、そこの建物の中にあったものを解体業者から譲り受け、調査を始めるところから話は始まる……

当初は民俗学的な興味から、遊女の生態や生活の様子を掘り下げて行くのだが、だんだん、遊郭というシステムの秘密にたどりついてゆく。
めっちゃ面白い。

吉原の遊郭と違って、名古屋中村の遊郭では『廻し』はなかったために、遊女は自分の部屋に住んでいるようなシステムになっていること。
逆に、廻しというシステムでは客が待ち時間の間の無沙汰をとりもつ太鼓持ち幇間)が必須であるが、それは中村遊廓では不要であったこと。(関東大震災で吉原の幇間が避難してきたが、仕事がなくて他所に逃げていったこと)

遊女は自室の調度品は遊郭の方で用意はされていたけれども、矜持なのか、客の満足度を上げるために、自分で寝具や長押や鏡などの調度品を購入するようなことも多々あったらしいこと。しかしその購入は遊郭出入りの業者によって市価の数倍の値段が付けられており、そのバックマージン遊郭に入ること。飲食や湯たんぽの水でさえ数倍の値段で、働いても働いても借金は減らないような巧妙なシステムになっていたこと。

昭和の性搾取制度の恐ろしさよ。
しかし女性は女性で性奴隷として搾取されるけれども男性は男性で、労働者として生命の危機のレベルまで搾取されまくるわけで…
いやはや。

しかし、逆に男性は、こういう遊郭でお金を払えば、コミュ障であっても性交することはできたわけで、
現代、日本の童貞率20%だか30%だかという状況とどちらが酷薄かといえばわからない。
動物としての三大欲求として考えると、現代の方が辛い時代なのかもしれぬ。

10年越しにわたる取材を淡々と描いている描写が、非常に小気味好い本でした。
書かれた時点が昭和末年〜平成元年くらいなので、今みると書かれた時代ですら過去のものではあるけれど。