半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『華僑の奥義ー一生お金に困らない儲けと成功の法則』

オススメ度 90点
ほほー度 100点

華僑の行動様式は我々日本人とは異なるし、西洋社会の常識とも異なる。
華僑=中国本土を離れて外国でビジネスをしている人間特有の、異分子との「歩み寄りのうまさ」がある。
と同時に、老荘思想などの東洋思想をベースにしたWay of Ruleがあり、それが併せ持ってできた華僑独特のマナー。

日本人にとっては、時には「逆張り」に見えることもあるが、今や彼らの方が世界経済の中では成功者にあたるわけで、知っておいて損はあるまい。
実際、一般の日本のビジネス本とは書かれていることが全然違っていて面白い。

華僑の行動様式としては、異国で、弱い立場での商売から出発するために、剛よりも柔を重んじる。
・華僑はよそものなので「勝つ」ことよりも「負けない」ことが何より大事。
・一位よりも三位くらいを狙う(消耗せずにすごせる)
・従わず・逆らわず、抜け道を常に探す。
・主語を「私」から「あなた」に変えて、会話を始めれば友好関係を築きやすい。
・人に言わせて、自分の意見を通す。
・「今は」仕方がない。将来的な解決策を探ろう。
・人がめんどくさがっているものに商機あり。人が困っていることを解決するスキルには需要あり。(損を避けるスキルは喜ばれる)
これは、ユダヤ人などでもそうかもしれない。下手から、顧客のニーズを掴み、商機につかむ知恵に長けているように思われる。

 ビジネスのやり方とかについても、特有のコツというものはありそう。
・自分よりレベルの高い人たちとの付き合いを求めるなら「借りを作る」のが最適。
・損きりの判断は早く。貸したものがかえってこないとわかれば、それはもうあげたものとしようと頭を切り替える。
・10儲かったら8を周りに分配し、自分は2だけとる。
・できない人は、できる人に貢献して一緒に上がる(世の中は不平等にできているが、それを利用する)エリートとは張り合わない。
・部下が脚光を浴びるようにしよう。(能力も経験も上司が上であることを見せつけると部下は育たない)。部下の功績は奪わない。
・順調じゃなくなってきたら、成功してきた証拠。トラブルは一歩一歩成功に近づいている証。失敗経験がある人は貴重。
朝令暮改を恐れるな。傷口を最小限で止める方策の一つ。
・起こっていることの犯人探しはしない。

この辺りのやり方をみると、日本人って、たとえ損をしようとも、是は是、非は非ときっちりしていくことが奨励される社会だけど、華僑は全くそうではなく、結果オーライの世界であるように思われる。


あと、個人としての生きかたにも特徴があるようだ。
・手帳は空白に(想定外がなければ飛躍もない)
・「自分へのご褒美」はご法度。(リュクスな体験は、お金持ちになってからの立ち居振る舞いを経験するため)
・節約はいいけど、ケチはだめ。
・お金は使うと増える
・お店は値切ってもらうことで永続的な関係を構築したいと思っている。(だから値切る)
・部下がおごるのは当たり前

この辺も日本的「フェア」な社会では少し面食らう部分ではあるけれども、成果・結果というのを前面にして考えるとむべなるかな、なのかもしれない。
とりいれられるところは取り入れていけばいいのだが、自分の思考様式・行動様式をずいぶん変えていかないといけないな。
めっちゃ感じ入る部分は色々ありました。

『現実で勇者になれないぼくらは異世界の夢を見る』

オススメ度 80点
タイトルの長さも含めて イマドキ度 100点

アニメ、サブカルの通史的な俯瞰を、会話文体でやっているサイトの書籍化。
転回点としてのエヴァンゲリオン、80年代、90年代、ゼロ年代……
社会とアニメとの関わりの点では、3.11と京アニ放火事件。

その辺を散りばめながら、アニメと社会との関わり、社会の変化によるアニメの変化、その相互作用を、わりとゆるくふんわりと説明してゆく。

最近のアニメ情勢を知ったかぶりして語るのに、もっとも硬派なのは宇野常寛かなと思うが、比較的ライトサイドに、これ有用だとは思う。
私は90年代までは基本的なアニメコンテンツおさえていたけど、ゼロ年代、10年代は、可処分時間が減ったことで、リソースのほとんどはジャズはじめとする音楽に注いでいるので、アニメは点々としかみれていないけど、いくつか観てみようと思った。

そういう、視聴誘発性こそがこの手の批評本の真骨頂なわけだから、その意味ではいい本だと思った。

『レジリエンス入門』

オススメ度 90点
オーバービューとして最適度 100点

中世ドイツの修道士トマス・ア・ケンピスは「われわれは他人が好んで他人が完全であることを求めるが、自分自身の欠点を正そうとはしない」と言いました。


レジリエンスについては、絶対押さえておく本があったと思うけど、これは、それをちょっと横から補強するべき入門書、という体裁。
新書だし。

ストレス(歪み応力)に対して、「その歪みを跳ね返す力」、がレジリエンス。元々は物理用語。
「精神的回復力」「心の弾力性」などと訳される。
レジリエンスとは、「しぶとさ」みたいな言葉から、ややネガティブな印象をとったような感じのもの。

ストレスに対して、柔軟に対応できるかどうかが、社会人にとっては、学業の優秀さとは別に重要で、レジリエンスをきちんともっており、長期的な目標をもっていると、遠いゴールに向かって興味や情熱を失わずに長期間粘り強く努力し続けることができる。

入門なので、前半はレジリエンスに対する概説。基本になるのは エリスのABCDE理論。出来事の解釈に、批判的な解釈を増やして、多面的にみましょう、というもの。レジリエンスの乏しい思考法の例示。

後半には、「レジリエンス増やしましょー」ケーススタディ的な、症例提示を通じて、セルフ・コントロールに触れている。
マインドフルとか、呼吸法なども。

原著にあるような、レジリエンスに対する熱い情熱はないが、淡々とレジリエンスについての観察法と対処法が列挙されている、まさに「レジリエンスってなんやろ?」と思っている人には過不足ない本。


以下、備忘録:

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『生き物の死にざま』

おすすめ度 70点
そのまま度 100点

生き物の死にざま

生き物の死にざま

色々な生き物の一生、そしてその最期について書かれたエッセイ集のようなもの?
昭和の昔、『野生の王国』とかでしたかね?自然の厳しさを紹介するような番組とかは、最後は、その個体の老いと死でしめくくられるようなのが多かった。サバンナの動物とか。
そういう時に、なんとなく寂しい気持ちになったものだった。

この本はそういう寂しい気持ちになる寂しいシーンを集めたような感じ。*1
なんだろう、寂寞感を煮詰めたような読後感である。


ちなみに、一匹の蜜蜂は一生の間で、スプーン一杯くらいのはちみつを集めるらしい。
と書いて、そのあとに、
「しかしサラリーマンの生涯賃金も2億とかそこららしいから、札束を積み上げて自分の机の上に乗ってしまう程度。
我々人間も、蜜蜂のことを笑えない。」と容赦ない。

ちなみに、蜜蜂の働きバチは、逆年功序列制度らしい。
生まれたばかりの時は、巣の中の掃除とか幼虫の世話をしたり、ローヤルゼリーを作ったり、そういう仕事がキャリアの前半。
キャリアの後半は巣の外にでて、危険な「蜜集め」の業務に従事する。
人間の場合は、若く体力がある時に外周りをやって老いたら内勤。
けど、ハチの世界では、老いる前に、事故死するから、老いた個体を内勤に振り分ける、というやり方はとれない。だから年取ってから外回りするらしい。
いつか野垂れ死ぬことが制度に組み込まれているわけだ。厳しー。
ま、そしたら確かに、集団の若さは自然と保たれるのかもしれない。

多分、これから、団塊の世代の高齢化で、高齢者の希少価値はどんどん薄れ、高齢者がぞんざいに扱われると実感する世の中になる。
(考えてみると、団塊の世代は、若い時も、中年のときも、老人になっても、人口が多いせいでぞんざいに扱われてしまう…強くないと生きていけないよな)
でも、蜜蜂の世界よりましかもね。
まあ、肉体労働がなくなったら、中年・壮年が戦場に駆り出される世の中になるかもしれないけど。

あっさりとファンシーな装丁で、あっさりとした書き方ではあるが、それだけによく考えるとなかなかタフな世界だと思う。動物の世界は。

*1:ちなみにこういうネイチャーものだったら、死にまつわるシーンだけではなく、つがいになって交尾、出産、子育てみたいな章もある。が、この本は、そういうパートではない。

かっぴー二連発『おしゃ家ソムリエ おしゃ子!』『金子金子の家計簿』

オススメ度 100点
現代世相度 100点

おしゃ家ソムリエ おしゃ子!

おしゃ家ソムリエ おしゃ子!

金子金子の家計簿

金子金子の家計簿

「悪かないよ?良品さんに落ち度はないよ?、でもね?
ロトに剣に、ロトの兜に、ロトの鎧を装備してたら、そいつもうロトだからね?」
無印良品で揃えたインテリアの家で)


SPA!のバズマンとかも読んでいたけど、左利きのエレンとか、ごていねいに原作版、リライト版読んでみていたが、このBlogで取り上げるには、今ひとつ書ききれなかった。最近、この二作を読んで爆笑したので。

時代世相を鋭く切り取る作品というのは色々ある。古くは金魂巻、恨ミシュランホイチョイ
最近は東村アキコの一連の作品群はそうかなーと思っていたけど、2010年代後半はかっぴーなんだなあ。

おしゃ家ソムリエ おしゃ子!は、男の家の間取り・インテリアに容赦ないツッコミを入れていく女子の。金子金子は、人の金銭感覚にツッコミを入れていく女子金子金子の話。

画力は拙く、登場人物のネーミングセンスは『静かなるドン』『ナニワ金融道』クラスではあるが、内容はまあ面白い。

ドヤテリア、アレッシーのレモン絞るやつ、ティッシュケース、サードウェーブ男子、陰翳礼讃…
うーん、容赦ない。ちなみに私、2000年代でしたが、PENとエルデコとSTUDIO VOICE愛読していたサブカル廃男子なので、アレッシのレモン絞るやつ持ってました。確か。今でも家にあるかな。当然NEAF社の積み木とかもある。

 おしゃ子に激しく突っ込まれる側のやつなので、非常に楽しく読めました。

『金子金子』これは、多分金田一少年の事件簿をもじったタイトルなんですかね?
ものをみたら、職業をみたら年収や値段がわかってしまう、すべてがインプットされている女、金子が東京の男子や女子にツッコミいれまくるという作品。エンゲル係数ガバ太郎、ブランド三銃士、すき家すきスキーム、商社、サカイのふわふわのやつ……
金にまつわるだけに、こっちのツッコミの方があけすけだが、その分破壊力抜群。私は社会人になってから大都市で生活していない。
地方都市に住んでいる既婚者。週末は豚の世話や草取りをしている生活なので(冗談だ)こういう大都市の「シティライフ」はよくわからないのだけれども。

都会の高等遊民を茶化している漫画なのであるが、その辺縁の人にこそ楽しめるのかもしれない。
2010年代後半の世相を切り取る本として、10年後20年後はちょうどよいコンテンツになっているのではないかと予想する。

『モリー先生との火曜日』

オススメ度 70点
現代人が死を考える系文学の古典か度 100点

普及版 モリー先生との火曜日

普及版 モリー先生との火曜日

死について考えることも、語ることも難しい。
死はそれぞれの生の補集合であるので、生きている人生の内容によって、死というものの捉え方も変わってくるから。

hanjukudoctor.hatenablog.com

スポーツコラムニストとして活躍するミッチ・アルボムは、偶然テレビで大学時代の恩師の姿を見かける。モリー先生は、難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)に侵されていた。16年ぶりの再会。モリーは幸せそうだった。動かなくなった体で人とふれあうことを楽しんでいる。「憐れむより、君が抱えている問題を話してくれないか」モリーは、ミッチに毎週火曜日をくれた。死の床で行われる授業に教科書はない。テーマは「人生の意味」について。

恩師の死に立ち会うことにより、自分の人生や死についていろいろ考える主人公。
浮世での仕事に忙殺される、主人公の現在の生活と、理不尽な病気にかかりながら、怒ったり絶望したり自暴自棄になることもなく、死を穏やかに迎えようとするかつての恩師。動と静。

「人生は前に引っ張られたり、後ろに引っ張られたりの連続なんだよ」
「どっちが勝つって?」
「そりゃ愛さ。愛はいつも勝つ」

というKANのようなことを言うモリーは、確かに仏教の高僧のような高潔さをもって、死にゆく。
これはノンフィクションなのであって、プロッティングとしての起承転結はない。
だが、アメリカは、現代文明の最先端の中で死については悩みが深いのだろうなということはよくわかった。
宗教的な思索を、万人受けするような形で届けるのは難しいものだ。
この本はその辺のバランスがよくできていて、ベストセラーになるのもよくわかるが、ベストセラーであるにふさわしい、咀嚼しやすい内容であるなあ、とも思った。

半沢直樹 ドラマと『アルルカンと道化師』

オススメ度 80点
歌舞伎度 100点

半沢直樹 アルルカンと道化師

半沢直樹 アルルカンと道化師

半沢直樹 -ディレクターズカット版- DVD-BOX

半沢直樹 -ディレクターズカット版- DVD-BOX

  • 発売日: 2013/12/26
  • メディア: DVD

ドラマ『半沢直樹』は大盛況のうちに終了し、最終回の視聴率は記録的に高かったそうな。
国民的ドラマ。「国民的」ドラマ、というものには裏がある、とは思う。

半沢直樹シリーズ一応全部読んでいるけど、この「読んだ本Blog」では一冊も感想を書いてないようだ(こういう時、Blogは検索できるから便利)。
半沢直樹は、堺雅人香川照之のオーバーリアクションの演技に対し「これは現代の歌舞伎やなあ」という感想をどこかで見たが、私もそのように思った。

歌舞伎・勧善懲悪。
時代劇が受けるのと同じ構造。
そりゃ『国民的なドラマ』になるわけだ。

halfboileddoc.hatenablog.com

以前に同じ池井戸作品の『下町ロケット』の時に書いた。

町田康が『大岡越前がなぜ人気があるかというかというと、あれは一種の宗教劇だからではないだろうか』という言及をしたことが、
10年くらい前だがまだ僕の頭の中にひっかかっている。

TVドラマは、テレビマンの考える倫理感が投影されている。
もちろんその出どころは池井戸潤の原作にあるわけだが、池井戸潤が大衆作家・ドラマ原作者としてもてはやされるのは、テレビマンにとっても咀嚼しやすい倫理観を強く打ち出しているからだ。

半沢直樹のメッセージは明確で「仕事は客のためにある」という、江戸時代の商道に近い倫理観だが、TVドラマでは、より低いレベルの「勧善懲悪」が打ち出されていたように思う。*1

* * *

というわけで、小説の新作がでていて、読んだ。
これは、時系列的には第一作の『俺たちバブル入行組』よりちょっと前、エピソードゼロとでもいうべき作品だった。
わかりやすい娯楽小説で、プロット、スピード、ギミック、どんでん返し。非常にわかりやすく面白い快作である。
まあ、池井戸氏の銀行員時代の経験を余すところなく生かせるのだ。この第一作あたりの時代設定は。
なのでリアリティがあるし、作者もスイスイ書けている感じがある。

ただ、今回のTVシリーズの『銀翼のイカロス』の正統な続編となると、結構難しいんじゃないかと思う。
halfboileddoc.hatenablog.com

金融庁長官時代に、銀行に対する政策はかなり様変わりしているので、池井戸氏が現役だった時代の『都銀あるある』が随分変わってしまっている。
もう、ほぼ別の組織といってもいいくらいだ。
そして今現在も組織そのものの変貌は続いているし。*2

で、半沢直樹の続編となると、半沢は、おそらく昇進しているはずだが、ポジションが上の人のドラマって結構難しいのだ。視聴者の共感が得られにくいから。
課長島耕作』はおもしろかったが、『専務島耕作』『社長島耕作』には今ひとつキレがない。同じことが起こるのではないかと思う。
それに、取り扱う金額が大きくなれば、ドラマとして面白くなるわけではない。

もし『半沢ー』をうまくマネタイズするなら、『池袋ウェストゲートパーク』や池波正太郎の『剣客商売』『鬼平犯科帳』のように、中編をたくさん出せばいいと思う。「刑事もの」みたいに「銀行もの」みたいな定番ジャンルを作れたらいいのだけれど。
せっかくキャラのたった脇役が沢山いて、世界観が広く受け入れられたので、そういうシリーズがあったら見てみたい。

池井戸潤には、銀行員ものの小説がやまほどあるのだが、それを生かした一話読み切りを半沢世界に引き写してやればいいと思う。

銀行狐 (講談社文庫)

銀行狐 (講談社文庫)

最終退行

最終退行

新装版 銀行総務特命 (講談社文庫)

新装版 銀行総務特命 (講談社文庫)

*1:それもあって、第一シリーズの途中から観なくなった

*2:実際TVドラマでは、白井大臣が最後に蓑部を裏切ったり、なんとなくだが現代にFixしている風も伺える。