オススメ度 80点
歌舞伎度 100点
ドラマ『半沢直樹』は大盛況のうちに終了し、最終回の視聴率は記録的に高かったそうな。
国民的ドラマ。「国民的」ドラマ、というものには裏がある、とは思う。
半沢直樹シリーズ一応全部読んでいるけど、この「読んだ本Blog」では一冊も感想を書いてないようだ(こういう時、Blogは検索できるから便利)。
半沢直樹は、堺雅人と香川照之のオーバーリアクションの演技に対し「これは現代の歌舞伎やなあ」という感想をどこかで見たが、私もそのように思った。
歌舞伎・勧善懲悪。
時代劇が受けるのと同じ構造。
そりゃ『国民的なドラマ』になるわけだ。
以前に同じ池井戸作品の『下町ロケット』の時に書いた。
町田康が『大岡越前がなぜ人気があるかというかというと、あれは一種の宗教劇だからではないだろうか』という言及をしたことが、
10年くらい前だがまだ僕の頭の中にひっかかっている。
TVドラマは、テレビマンの考える倫理感が投影されている。
もちろんその出どころは池井戸潤の原作にあるわけだが、池井戸潤が大衆作家・ドラマ原作者としてもてはやされるのは、テレビマンにとっても咀嚼しやすい倫理観を強く打ち出しているからだ。
半沢直樹のメッセージは明確で「仕事は客のためにある」という、江戸時代の商道に近い倫理観だが、TVドラマでは、より低いレベルの「勧善懲悪」が打ち出されていたように思う。*1
* * *
というわけで、小説の新作がでていて、読んだ。
これは、時系列的には第一作の『俺たちバブル入行組』よりちょっと前、エピソードゼロとでもいうべき作品だった。
わかりやすい娯楽小説で、プロット、スピード、ギミック、どんでん返し。非常にわかりやすく面白い快作である。
まあ、池井戸氏の銀行員時代の経験を余すところなく生かせるのだ。この第一作あたりの時代設定は。
なのでリアリティがあるし、作者もスイスイ書けている感じがある。
ただ、今回のTVシリーズの『銀翼のイカロス』の正統な続編となると、結構難しいんじゃないかと思う。
halfboileddoc.hatenablog.com
森金融庁長官時代に、銀行に対する政策はかなり様変わりしているので、池井戸氏が現役だった時代の『都銀あるある』が随分変わってしまっている。
もう、ほぼ別の組織といってもいいくらいだ。
そして今現在も組織そのものの変貌は続いているし。*2
で、半沢直樹の続編となると、半沢は、おそらく昇進しているはずだが、ポジションが上の人のドラマって結構難しいのだ。視聴者の共感が得られにくいから。
『課長島耕作』はおもしろかったが、『専務島耕作』『社長島耕作』には今ひとつキレがない。同じことが起こるのではないかと思う。
それに、取り扱う金額が大きくなれば、ドラマとして面白くなるわけではない。
もし『半沢ー』をうまくマネタイズするなら、『池袋ウェストゲートパーク』や池波正太郎の『剣客商売』『鬼平犯科帳』のように、中編をたくさん出せばいいと思う。「刑事もの」みたいに「銀行もの」みたいな定番ジャンルを作れたらいいのだけれど。
せっかくキャラのたった脇役が沢山いて、世界観が広く受け入れられたので、そういうシリーズがあったら見てみたい。
池井戸潤には、銀行員ものの小説がやまほどあるのだが、それを生かした一話読み切りを半沢世界に引き写してやればいいと思う。