半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『たそがれたかこ』入江貴和

オススメ度 90点
Aiko師匠〜!!度 100点

なんか、これを読み始めた時、『34歳無職さん』と同じころだったように思う。

ひっそりと読み進んでいたが、完結したようで、この前最終巻を読んだ。

この二作を読んでいた頃は、自分の「ミッドライフ・クライシス」感バリバリのころとも重なっていて、どうにも共感せざるを得なかった。

歯車がうまく噛み合わなかった40代。
子供のことも家族のことも一寸先は闇、みたいなストーリーのリアリティに、ちんすこうが口の中の水分吸うレベルでテンションを吸い取られた記憶がある。
主人公は、離婚シングルマザーで、弁当屋の調理ユニットで働くイルカ似のメガネ女性。

子供が不登校になり、引きこもりになり、自傷癖ができて、拒食エピソード。
そんななか、若者が聴くような今時のロックバンドにラジオで惹きつけられ、はまってゆく。

音楽が人を癒す。
音楽が、人をつなぐ。
音楽にはそういう力があるよな。もちろん、演奏者として高みを目指すという根源的な目的でもいいけど、
人生の途中に音楽に出会って、これまでよりも濃密にかかわり、それなりに救済を受けた人、僕の周りでも何人かいる。

もちろん、40代のシングルマザーにシンデレラめいたハッピーエンドがあれば、嘘くさい。
そこはきちんしていて、どちらかというとリアルでほろ苦いエンディングなんだけども、一部救われるような描写もあり、なんだかほっとした。
貧困からさらに転落、みたいな底なしの不幸を描くことは『四丁目の夕日』みたいにすることもできるはずだから。

四丁目の夕日 (扶桑社コミックス)

四丁目の夕日 (扶桑社コミックス)


ドラマ化するんだったら、主人公は誰だろう。
できればAiko女史にやってほしいものだが、
多分Aikoの実年齢と主人公の年齢は同じくらいだけど、Aikoは見た目随分若いので、50代半ばになったらちょうどいい感じになると思う。
まあ、しないと思うし、あの人は音楽を操る側の人なので、ちょっとリアルにはならないと思う。

むしろ同じような設定の40代女性を主人公にして、今まで音楽全くやってこなかったけど、ある日歌ってみたらめちゃくちゃうまかった、みたいなドラマをAiko主演でやってほしいなあ。できればミュージカルで。
天才Aiko、後半生のキャリアのどこかで再びポリュラリティを得る作品が欲しいと思うのは僕だけだろうか。

ちなみにこちらは、「たそがれたかこ」が動だとすれば静。
何もなくなった毎日を淡々と過ごす。そんな中にも動きがあり…という作品。こちらも父方に引き取られた娘がいる。
設定としては「凪のお暇」に近いのかもしれない。
halfboileddoc.hatenablog.com

『麺の科学』山田昌治

オススメ度 100点
やばい度 100点

ちょっと前にネットで話題になったので、僕も買ってみた。
知的好奇心を最大限にぶん回したら、こうなるのか、という快作。

理科の授業だと思って理科実験室に入ったら、でんじろう先生のライブだった、みたいな読後感であった。

ブルーバックスで「麺の科学」という大きなタイトルだったから、麺に関しての総花的な知識を期待していた。
途中から、めちゃくちゃ粉に対するこだわりがでてきて、ん?となってくる。
そして繰り返される執拗な麺の食感に関するこだわりと試行錯誤。


デンプン・粉に対するこだわりが、とにかくすごい。
第4章:「科学の力でめんをおいしく」はすごい。
麺を茹でる時の差し水の効果と温度の検証、素麺を重曹入りの水でゆでると、中華のかん水の代わりになって歯ごたえがかわる。
しかも食感を、材料試験装置を用いて破断試験で「コシ」を定量化したり。
応用で、うどんを茹でる時にしらたきを一緒に茹でると食感が変わる。とか、
即席麺をどのタイミングでかき混ぜるか。とか。
スパゲッティの「アルデンテ」を検証するために、麺の断面をMRIで測定、とか。
麺の「香り」を評価するのに、ガスクロマトグラフィーで成分分析したり。
しかも、第5章では、繰り返した実験で、あかんやつ=NG集を紹介していたり。
 なんすかこの本は、ジャッキーチェンの映画ですか。

普通に期待される本の範疇をギリ超えて、クレイジーなほどに面白い。
オーケストラの楽譜に「大砲をぶっぱなせ」とか書いてあるようなもんだ(「1812年」)

”Blue Journey” 和田明 布川俊樹

オススメ度 100点
絶対31歳じゃないだろ度 100点

BLUE JOURNEY

BLUE JOURNEY

ジャズギタリストの布川俊樹さんは、私の住んでいる街福山にもよくやってきます。
そんな布川さんが、ある時若いボーカリストを連れてきたのだが、あまりのすごさにぶっとんだ。それが2年前。
ファーストアルバムもよかったが、今回は布川さんとがっちり組んでDuoでアルバムを作り。
レコ発ツアーをして、福山にも8月24日にやってきました。

まあ、すごいのよ、この人。表現も確かだけど、ジャズに必要なアドリブも、対応力もある。ユーモアもある。
歌もうまいしなあ。

stay tune - suchmos 和田 明の0号シリーズ。②

これ、サチモスの Stay Tuneを歌ってるやつですけれども、これでその実力の一端を推し量っていただければ幸いです。
で、和田さんギター弾き語りでもこのように全然できちゃうんだけど、ここに布川さんが絡むと、さらにいいバンドサウンドになる。
付かず離れずのいい距離感である時は完璧なバッキング、ある時にはソリストとして切り込み隊長。

アルバムそのものは、見た目軽い作りですが、いいですよ、これ。オススメ。
ジャズに限らず、Pops, R&Bの曲とかも入っているので、万人にオススメできます。

ぜひライブにも足運んでみてください。

『ホットケーキの神様たちに学ぶ』

割と力技度 80点
石窯ホットケーキ食べてみたい!度 100点

一冊通じて振り返ると、結構面白い本だった。
都内を中心に、ホットケーキをウリにしている店を総花的に取り上げ、後半30%くらいでは、とってつけたように(失礼)マーケティングの参考として総括している。

結果的には「HANAKO」的にホットケーキのお店の案内として利用することもできるし、マーケティングの業界事例研究としても役に立つ。
ま、後半については、別にビジネスモデルのバリエーションがあるわけでもないし、まあまあ苦しいかな。
それでも丁寧に店ごとの戦略性とか工夫などをまとめていたりもするので、前半を読んでから後半を読むと、マーケティングの人のものの見方の、まあお手本になるのではないかと思う。
逆に、マーケティング業界の人にとっては、後半の総括部分は、まあ平均的な総括ではないかと思う。
もしこのパートを読んで「目から鱗!」と思えるようでは先が思いやられる。

でも、ありふれた結論だけれども、これだけのフィールドワークから生み出された結論は、やっぱり重い。
ありふれた結論を腹の底から理解してきちんと動けたら、ビジネスは成功するのだから。

「どこにでもある定番がめちゃめちゃ美味しかったら、必ず売れます」

 文中にもでてきたこの言葉が、すべてを物語っていると言えよう。

神様のバレー

オススメ度 90点
進学校の男子校というところで共感度 90点

神様のバレー 1巻 (芳文社コミックス)

神様のバレー 1巻 (芳文社コミックス)

なんかTwitterとかで漫画読みアプリみたいなやつで宣伝されていたので読んでみた。
面白かった。

阿月総一は実業団バレーボールチーム<日村化成ガンマンズ>のアナリスト。とあることを条件に、全日本男子バレーボール監督の座を約束される。それは、万年地区予選1回戦敗退の私立中学校男子バレー部に全国制覇させることだった!

割と性格の歪んだアナリストが主人公。舞台は進学校の中学校の弱小バレー部。
相手の嫌なところを突いていくというスタイルと頭脳プレーが進学校の学力と問題解決能力はあるけど素直な男子たちにハマる。
万年一回戦負けから快進撃は、ドラマとしては出来過ぎだが、まあそれはしゃあないだろう。ドラマだし。

70年代から90年代までスポ根漫画は、才能=(それは、まあ言ってみれば、血筋ということになる)。そして、努力だった。
フィジカルの才能を重視したストーリーテリングが目立ったように思う。それの才能のバックグラウンドになるのは、大抵は血筋(お父さんの非業の引退劇の業を背負っているとか。巨人の星やね)
キャプテン翼とかは血筋による能力と努力。スラムダンクは、もともとの能力と努力。

ただ、そういうストーリーは現実の一側面ではありながら、すべてではない。
ゼロ年代になってから、頭脳プレーや戦略性を強調するスポーツ漫画が増えてきたように思う。
Jリーグでの弱小チームが徐々に強豪を倒していく漫画"Giant Killing"

コージィ城倉のひ弱な部員がキャプテンを任されリーダーシップに目覚めていく野球漫画 "おれはキャプテン"優等生がテニスと出会い、解析能力を駆使して成長してゆく "ベイビーステップ"などかなあ。

この手の主人公はどちらかというと類まれなフィジカルでライバルを凌駕するというよりは、競技そのものの本質と戦略性に気づき、相手の強みと弱みを分析し、ゲームメイクをしてゆく。
こういう選手は、昔であれば、ライバルとかによくあるありようだった。
気がつくとこういう属性の人たちが主人公になっていたのは最近の漫画の面白いところだと思う。

データや戦略性を重視しているようになった現実のスポーツ界を反映しているのか、それとも漫画を読む子供達に刺さりやすい設定だからか。

絵はとても丁寧で読みやすい。
キャラクターの描き分けもきっちり。
バレーのことは僕はよくわかりませんが、まあ荒唐無稽な話はありません。
ただ展開が早いからしょうがないのかもしれないけど「武器」になりうるテクニックが二週間くらいで身につくのは、ちょっとどうかなあと思った。
例えば、僕ら音楽でも、一つの語法を覚えるのに、数ヶ月とか、下手したら一年くらいかかったりもする。
身につけやすいものをピックアップしているとしても1ヶ月はかかるんじゃないかとは思った。シナプスに定着するまでには。

時給思考

オススメ度 80点
自己啓発アオラレ度 80点

時給ベースで業務を考える、というのは、最近の経営手法としては「はやり」でもある。
残業とか、そういうのも含めて生産性を定量化したり、働き方改革の「同一労働同一賃金」の考えを延長すれば、部門ごとに、人件費をとりまとめ、収益と比較すると、部門別の生産性がまるわかりになるからだ。

その辺は、最近のメインのBlogでも取り上げてはみた。
hanjukudoctor.hatenablog.com


ただ、この本は、そういう組織レベルの話ではなくて、個人向けの話。
個人のキャリアプランとかそういう観点でも、時給をベースに考えたらどうか?というお話。

タイムイズマネーではなく、タイムイズライフ 時間がすべて

とか、容赦ない煽りを入れてくるこの本。自己啓発度としてはかなりに酒精度が高いとは思う。


確かに、自分の価値を「これくらいの給料もらっているから自分はこれくらいの価値だ」と考えたら、絶対に起業などできない。
多分、この本の提唱する時給ベースで思考する方法のよいところは、自分がどれくらい稼げるかを良くも悪くも露わにし、現実を直視できることだと思う。

最低限必要な時間、達成のための時間、楽しむ時間、無駄な時間の4つのうち、無駄な時間を削るだけでも、随分効率化はできるとは思うね。という話。

で、時給思考で考えると、
・通勤時間は無駄ですよ。
・残業も無駄ですよ。
となる。残業による給与の増分よりも、ダブルワークの方がいいんじゃないかと。

・仕事の質ではなく、仕事の種類で時給は決まる。
・時給が高い人は、ビジネスオーナーか投資家。つまり他人に働いてもらったり、自分のやっていることを他人に教える人。
・1.5流のスキルを二つ身につけましょう(一つのスキルを一流まで持っていくのは時間効率が悪いから)
・10のやることがあったら、本当に重要な2個のことしかやらない。
・目標は、2倍ではなく10倍を目指す。
・給与でもらっているうちは自分がやった分のお金はもらえない
・年収300万円の人は月給思考、年収1000万の人は年収思考、一億の人は時給思考。
・できない人ほどオリジナリティに固執する(時給思考の人はカンニングの天才)

 本のすべてを出してもいけないので、これくらいにしておく。
 うん。まあ、わかる。僕もこの手の本読みまくっているから、内容としては妥当だし、そうだと思うよな。
 少なくとも、給与生活者の人はこういうのは読んでおくと、全く異質なコンセプトに気圧されるかもしれないけど、確かに真実は突いてるよね。

ただし、この考えを身につけた人が必ず成功できるわけでもないし、こういう効率性の話は、
ミヒャエル・エンデが『モモ』で喝破した世界そのものだ。

モモ (岩波少年文庫(127))

モモ (岩波少年文庫(127))

そう、時間泥棒ね。

『美食探偵 明智五郎』

東村アキコはでる漫画でる漫画、わりと読んでしまう。この前はハイパーミディを読んだ。
halfboileddoc.hatenablog.com
これは別マで連載中の「美食探偵」という漫画。

美食かー、と思ったのが第一印象。
正直、今はマーケットにグルメ漫画が飽和している。

グルメ漫画の多くは、ストーリー運びが遅い。
このBlogでは取り上げていなかったが『メシバナ探偵たちばな』も、いわゆる刑事ものにグルメ(しかもB級グルメ)を組み合わせた快作で、作風も安定。
金太郎飴的なストーリーの動かない世界観で、色々な食材に関する話が、延々と続く(逆にいうと続けられる)構成になっている。
逆に言うと、終わらずになんぼでも続けられるようになっている。
この手の漫画の金字塔といえば『美味しんぼ』なんだろうな、やっぱり。
ストーリーは動かないか、ゆっくりとしか進まない。
一旦パターンを決めちゃうと、あまり考えずに漫画を描けて、しかも部数も安定するこういう「安定物件」は、多分漫画家のポートフォリオとしては必要なんだとは思う。

この漫画はそうではなく、良い意味で予想を裏切られた。
ルパンと銭形警部みたいな感じで、主人公である、美食探偵(というか、食に重きを置いているというよりは、良家の子弟が探偵をやっている設定が重要だったのではないかと思う)と、それに対抗する黒幕的なファムファタルとの対決漫画。
推理・探偵小説の漫画ではなく、ノワール系といえばそうなのかもしれない。

主人公の明智五郎も、ファムファタル的な敵役も、やや芝居が大仰ではあるが、キャラも立っていて面白い。
展開もスピーディーである。
十年一日の安定物件としてのグルメ漫画ではなく、多分6〜7巻くらいで完結するような起承転結。(今は5巻まででている)
はなから、ジュブナイル向けマーケットのテレビドラマに取り上げられるのを狙っているような作品だ。

そういう意味でも東村アキコは本当にうまいなあ。
同時に何作もストーリー漫画を並行して走らせるのって、すごい大変なんだと思うけど。

美食探偵 (角川文庫)

美食探偵 (角川文庫)

ちなみにこちらは全然別の話で、「美食探偵」繋がりで読んだ。
主人公は明治の話で、割とオーソドックスな推理小説もの。
美食なのはやはり明治期なので良家の子弟。
 悪くないのだが、書いている人が現代なので、正直にいうと明治の時代感はあまりでていないと思う。