半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『心理学的経営』大沢武志

オススメ度100点
一世代前の本なのに!度 100点

心理学的経営 個をあるがままに生かす

心理学的経営 個をあるがままに生かす

ちょっと前に、心理学の、エニアグラム9、9タイプ分類の本を取り上げたりはしたけれど、
halfboileddoc.hatenablog.com

企業内のチームビルディングに、やはりこういう心理学的なアプローチはとても大事。
なぜなら、離職原因の上位には「職場での人間関係」というのが必ず入ってくるから。

この本は、この手のアプローチでは古典的とでもいえる本。なんと刊行は1993年。
現在就職活動に必須のSPIとかの生みの親らしいぞ。
リクルートの人事担当の、多分伝説的な人。

その人の「知る人ぞ知る名著」がKindleでもみられるようになった。
で、ネットのビジネス書紹介みたいなやつでも話題になっていたので、読んでみたわけだ。

* * *

うん、なにこれ。一世代前なのに、今でも通用する正しいことが書かれていてびっくりする。
1993年刊行だから、阪神大震災の少し前だよね。バブル崩壊から、世の中の実学思考への回帰を反映してか、心理学を経営に敷衍するという話はそのころはほとんど省みられることがなかったためか、理論的な背景への紹介がやや多い気はしたが、その分説得力がある。

内容はかなり広範囲に渡る。
今ならそれぞれの章が一冊の本で成立すると思う。
具体的なツールとしてはMTBIを使っているようだ。この辺りが、のちのSPIのPersonality Testに繋がっている可能性はある。

以下、備忘録。
・人間は機械のようにはいかない。
「命令系統統一の原則」は人間の場合はノイズとしての情緒や感情を基底にもつところにその本質があるわけだから、効率性と合理性をつきつめると、人間の重要な一側面を無視していないか。
・「組織風土」は無意識層として時を経ても引き継がれ、行動を支配し続ける性質のものである。
・人々を仕事に駆り立てるものは何か?(動機付け理論の紹介)
・若者を仕事に駆り立てる3条件。「自己有能性」「自己決定性」「社会的承認性」
ホーソン実験の意味するものは何か?
・集団の中でのメンバーの行動をより強く規定しているのは、経済的報酬に対する動機付けではなく、帰属する集団の中で容認された規範に従うという社会的要因
・集団力学・集団規範、自律的小集団の重要性
・日本的人事の欧米との差異は何か?(「手」を雇う欧米型と「人」を雇う日本型人事)
・企業内評価の二次元。軸は「使用価値」「存在価値」
・企業人適正の側面を「職務適応」「職場適応」「自己適応」という三つの場面との関係性において捉える考え方を提唱。

企業人事を考えるのであれば、やはり一度は目を通さないといけない本ではないかと思った。
あと、自分の組織の中で、こういう共通言語をどれだけ持ちうるか、ということも。

1993年に刊行されたとは思えない、古さを感じさせない本であるとは言っておこう。
逆に、今「心理を人事に活かせないものか…」とか思っている自分とか、全然勉強不足やん、とは思った。
自転車の再発明!

それと、こういうことを踏まえても、いわゆるブラック企業とか、昭和の大企業での働き方は、総じて改革されなかった、という事実も覚えておかなければなるまい。

小ネタ集

色々溜まっているので、適当にこっちに挙げておきます。

『アトム・ザ・ビギニング9』

手塚治虫原作、手塚眞ゆうきまさみアドバイザーでカサハラテツロー作画。
ていねいに描かれているといえばそうだが、どこに着地するのやら。
浦沢直樹Pluto』で、このパターンは一旦認知されているからねぇ…

てぃーろんたろん 一連の著作集

顔がない女の子: 座坊町一丁目

顔がない女の子: 座坊町一丁目

 WebとかTwitterとかで時折Retweetされているので知った。
 独特の語り口。画風も、下手でもなく、立体感がないわけもなく。
 女の子のパーツのはしばしから醸し出される色気(口さがなくいってしまえば、男の発情ポイント)の描写がうまい。

さよなら身体

さよなら身体

さよなら身体

この前『ホムンクルス』『殺し屋イチ』絡みでひっかかってきたやつ。
ギミックはいかにも山本英夫的ではあるけど、
若くして癌で死ぬる無念感と、送り出す家族の諦念と覚悟というのが、間接的に伝わる。

『サ道2』

サウナブームを牽引する漫画。まだまだ続きそう。
僕もサウナやってみようかなー、と思わせる作品。
あ、「ととのったァ!」はリアルでも使ってますよ。サウナ行かないけど。

進撃の巨人29』

思った以上に構築的なストーリーテリング
すごいなあこの人。伏線の回収までの尺の長さがすごい。
でも一巻がでるごとに今までのやつを全部読み直すのはけっこう厳しい…

めしばな刑事タチバナ34』

安定したマンネリズムを発揮。そろそろ誰かが結婚したりしないかと思うのだが。

『サターンリターン』鳥飼茜

浅野いにおと結婚を公表した鳥飼女史。
夫婦合わせた漫画力、1000万超人パワーだな!

壇蜜日記ゼロ』

日記少し、対談少し、グラビア少し。
いうなれば、壇蜜のスターターパックみたいなやつ。
僕は結局壇蜜日記4くらいまで読んだところで止まっているかな。

援助交際撲滅運動』

殺し屋イチまとめ買いのあと、Amazonの趣味志向に加わったので、「おまえこんなん好きちゃうの?」という感じですすめられたやつ。
うーん。
テレクラとか、すごい時代を感じさせるのと、こしばてつやの初期ということで、ややデッサンが崩れた黒ギャルというところが、なんともエロ本感あり。
映画?DVDにもなってるんだ… エロはいつの時代も強いねえ…

『フルーツ宅配便』

郊外での人妻系デリヘルの話。一言で言ってしまうと。
直接的なエロ描写は全くない。裸婦すらでてこないけど題材はエロ。
エロの周辺にある悲喜劇もろもろ、金銭トラブルとか、愛憎とか、そういうの。
人情話にもならないし、淡々といい話やいやな話が出てゆく様が、なんかすげえリアル。
読んでも全然エッチな気分にもならないし、満足感もない。なんかずしんと腹にくるやつ。

「すごいジャズには理由がある」岡田暁生,フィリップ・ストレンジ

オススメ度100点
動画もご一緒に!度 100点

すごいジャズには理由(ワケ)がある──音楽学者とジャズ・ピアニストの対話

すごいジャズには理由(ワケ)がある──音楽学者とジャズ・ピアニストの対話

クラシックの専門家岡田暁生氏がフィリップ・ストレンジのところにレッスンに通っていろいろ面白かったので対談記事を作ってみた、という本。Youtubeにもこの本の内容の動画が挙げられている。興味があればまずそちらをみてもらえばいいと思う。

第1章「アート・テイタム」前篇〜『すごいジャズには理由(ワケ)がある』

僕もまず動画を観てから本を買ったのだが、動画だけだとつらっと過ぎてしまうようなところも、本だと理解しやすい。
反対に、本だけだとわかりにくい部分も、動画で、フィリップ・ストレンジ氏の実演が付いていると理解しやすい。
Youtubeと本とメディアミックスすると最も楽しめると思う。

私はアマチュアのジャズ活動をしているのでこういうジャズのスタイルについては比較的詳しい方だと思うが、それでも、フィリップストレンジ氏が、このスタイルはこういう感じで、とか紹介しているのはすごくためになった。
また、時代を切り開くようなジャズ・ジャイアントがどういうことを考えてアドリブや、サウンドを作っているか、ということも。

30年来、ジャズ・トロンボーンというのをやっているが、一つできることが増えると、五つくらい新しくやらなきゃいけないものが見えるのがジャズだ。特に6年前からピアノを始めてジャズピアノじみたこともやるのであるが、これがまたヤバい。フロントだけだったら、簡単に済ませていたものも、コード楽器のやり口というか、演奏の味付け、起承転結、フレージング、ボイシングには無限の可能性がある。

でもこの本を見て、自分に足りない部分がまだまだあることに気付かされた。アドリブ・フレージングの時の展開やボイシングの展開など。
一生かけてもここはもうたどり着けない場所なんだなあ…と嘆息する。

 ただまあ自分の立ち位置というのも少しわかった。
 ジャズでは、スウィートな音楽がはやる時代と、Biting(どちらかというとゴツゴツとした前衛的)な音楽の流行が交互にやってくる、という話。自分は紛れもなく、スウィートで破綻のないスムースな音楽が好きで、それに共感できるということだ。トロンボーンという楽器の特性もあるけれども、アバンギャルドな音楽よりも、よくできた精密機械のような音楽が好きなんだ。それは上下や貴賎があるわけではなく、ただそうである、ということになる。

まあしかし、動画と本と合わせて楽しめる。ジャズの知識がない方でも特に動画は特にわかりやすい。
入門編から中級編の間くらいに一度見ておけば、すげー理解しやすいと思う。

『前略 雲の上より』1〜5

オススメ度 80点
いろいろ空港行きたくなる度 100点

前略 雲の上より コミック 1-5巻セット

前略 雲の上より コミック 1-5巻セット

ハハハ。失笑。

鉄道マニア、というのはわりと知られた存在であるが、それの飛行機版、飛行場・飛行機マニアというのは一定数いる(僕があまり飛行機を使わないから、そんなに出会うことはないわけですけれども)
まあまあ意識高い系の若手サラリーマン(出張族)が、上司の飛行機・飛行場マニアに巻き込まれ、だんだんと「空ちゃん」にそめられていくのを描いた漫画。

僕は実はそんなに飛行場を使わない。国内出張、それもほとんどが東京なので、新幹線ばっかり。
これは、自宅も勤務地も福山駅から近くて便利だから。なんなら病院から駅まではタクシーならワンメーター。歩いていける距離。
だから、東京に行く、というと、Door to Doorで新幹線が楽なのである。

そうはいっても、それなりには飛行機も使う。
なので紹介されている空港も、楽しく読むことができた。
途中からは鉄道マニアの別部署の課長などもでてきて、張り合う様などで、漫画にテンポもでてきてなおさら面白かった。

それにしても以前ANAの名物機長(風景や感想などを、機長の放送の時に朗々と披露する)の講演を聴いた時は衝撃だったな。
今まであれよりもインパクトのある講演はなかった。〜

新版世界一のココロの翼を目指した“名物機長

新版世界一のココロの翼を目指した“名物機長"のおもてなし

『フリーズする脳〜思考が止まる、言葉に詰まる』

オススメ度 100点
非医療者向けで、エビデンスは書かれていないのは気になる度 80点

フリーズする脳 思考が止まる、言葉に詰まる (生活人新書)

フリーズする脳 思考が止まる、言葉に詰まる (生活人新書)

うーん、身につまされたな。
突然言葉がでなくなる、何かを言おうとして、詰まってしまう、みたいな現象、壮年にはそれなりにあると思うけれども、それってヤバイですよ!という本。

認知症のごく初期の、脳機能が低下している状態の段階について書いた本。
著者は脳外科の先生。
いわゆるエビデンスばっちりで書かれたものではないが、実体験、実臨床に基づいた生々しさがあるし、実際私も思い当たる節はある。

一部紹介すると、

  • 環境の中に脳をボケさせる要因がある
  • 以前自分の脳を使ってやっていたことをすこしずつやらなくなり、使わない筋肉が衰えるように、脳の機能も低下していってしまいます。脳というのは基本的に怠け者であり、楽をしたがるようにできているから
  • 前頭葉の機能が低下してくると話や行動が反射的・パターン的になる。
  • 「新しく組み立てていく部分」が少なくなると、パターン的に処理している。職人的な仕事だけでなく、一見高度な組み立てを求められるようなお仕事でも、問題解決に至るまでの思考プロセスが反射的・パターン的であると、それは前頭葉を使っていないため、とっさの対応力が落ちる。
  • 普段の生活でも同じことしかしない、気心の知れた人としか話さない生活は、新しく思考を組み立てる力はどうしても落ちる。
  • 立場が上がって、より大きな仕事を任されたからといって、より思考的になるとは限らない。
  • 上司になると面倒なことを部下に任せ反射的なパターン的な組み立てで対応できる世界に逃げ込んでいくことがある。
  • 働き盛りの人がボケていく時に多いのは、何もしていないような場合ではなく、何か一つのことをやりすぎている場合です。
  • 知識は消費するものではなく、一旦覚えるようにしないと、脳をつかわない。思い出せないと、ひらめかない。最近のインターネットは、思い出す努力なしで知識を引き出せるのでよくない。
  • クリエイティブな能力は脳機能の総合力。専念していると、発想できない。

要するに、認知症と言われるような年齢ではない人でも、業務範囲が狭く、広がりがないような仕事をしている人は、脳の使い方が偏っているので、そういうのが常態化していると、認知症になりやすいんちゃう?という話。
言語能力も低い若い人が、うちの職場にもいるが(男性)、若くても、その後、前認知症段階にいくんだろうな…と思う。

ついこの前、「できないことを楽しむ」というブログを書いたが、それはやっぱり正しいということだな、と思った。
hanjukudoctor.hatenablog.com

脳の使い方として上手な具体例など、ノウハウについてもいろいろ書いてあるのがいい。

モリのアサガオ

オススメ度 90点
関西弁の生々しさがよかった度 90点

モリのアサガオ1巻

モリのアサガオ1巻

何年前だったかな?ドラマ化を先にみた。
テレ東だったし、重い話題だったので、そんなに流行らなかった気がする。
それでも普通のドラマと違って異色なテイストだったので、全体の6割くらい視聴した覚えがある(僕は基本的にはドラマは観ない)。

エンディングテーマ椿屋四重奏「マテリアル」はなかなかいい曲だと思ったが、
椿屋四重奏はそのあとすぐ解散したので流行らなかった。
一度二度カラオケで歌ったが、あまりピンとこなかった。

椿屋四重奏 - マテリアル

この度Kindleのオススメにちらりとでていたので、懐かしく思い、読んでみた。
よかった。
全7巻という中編の作品であるが、
狂言回し役の主人公にも重いテーマがあり、複数のエピソードが錯綜しストーリテリングとしてはダレ場がなかった。
完成度の高い漫画だと思う。
ただ、絵柄はやや独特で、リアリズムよりも記号的な感じだ。

* * *

主人公は、検事を父にもつ新米の刑務官。
職場では、エリートのボンボン、という受け止められ方をしている。

主人公は、喜怒哀楽や、前提とする知識もなしに入職したような描写で、死刑囚の一挙一投足で考えがブレまくる。
読者を共感させるための、狂言回し役だから仕方がないのだが、それにしてもバカすぎへん?という感想ではあった。
振り回されすぎだろう。

そんな主人公も、同い年の死刑囚や、他の凶悪犯罪死刑囚とのやりとりを目の当たりにし、死刑執行に怯え、罪の意識に苛まれる死刑囚の行動を
み、また自分の運命にも気づかされ、成長してゆく。

「死刑」という超特殊なシチュエーションでありながら、共感を持ちやすいのは、我々の人生も「死刑囚」と同じで、命を失うその日を怖れて生きているからに他ならない。
死に怯える気持ちは普遍的なもので、また、自分が過去にしでかしたことを後悔し、過去の復讐に怖れるというのも、これまた死刑囚ならずとも我々に共通の感情ではある。
特殊から普遍を描く。こういうのは「アルジャーノンに花束を」とかと似たやり方だ。

結局我々が怖れているのは「死刑」ではなく「死」なんだよな。

* * *

ところで、死刑制度そのものの是非はかなり難しい。
現代の日本人の遵法意識や法感覚は、死刑ありきの現行法制度で構築されている部分もあるので、
これを変えるというのは、現在の法体系を完全にやりなおす覚悟がいると思う。

なんの臆面もなく正論を言えた若い頃は、僕も死刑廃止論に賛成であった。
ヒューマニズム?そういうやつ?

壮年である今は、死刑制度に全面的に反対、とは思わなくなった。
それは、どちらかというと、仕事では、適切な時期に死を迎えることを逸してしまった人の不幸をみることが多いからかもしれない。

死刑を執行しないとすれば、犯罪者はずっと生き続けなければならない。
死ぬまで。

だって「人生百年時代」だよ?
終身刑終身刑で結構しんどいだろうなーと思う。
老いて、自我が曖昧になり、最終的には寝たきりになって死ぬ。
刑務所の中で、どこまでのケアができるのか。
誰がケアをするのか?そこの線引きは難しい。
基本的人権の尊重ということになるなら、生活保護の生活レベルまで維持することになる。

死刑制度に乗っかってしまった人の運命は、僕も理不尽なものであるとは思う。
が、その理不尽さは、例えば取り調べが冤罪を産みやすい密室主義であることや、拘置所から死刑執行までの期間がまちまちであることなど、死刑執行に至る一連のプロセスにあると思う。
そこをある程度改善することによって、死刑制度そのものの理不尽さ・残虐さは緩和されうるのではないのか、とは思う。

逆に死刑制度が廃止され、なおかつ現在の無期懲役終身刑にかわったら、囚人の魂は救われるのか。
前述したとおり、刑務所で身体にいい生活していたら、その間結構長い時間を生きることになる。
まあまあの国費を費やして。

じゃあ、早期更生して社会に出る?
社会にでてきたところで、昔よりも社会の隙間が少ない。
刑期を終えた元囚人が社会復帰するのは多分昔よりも難しい。
SNSがこれほどまでに発達してしまったら、素性なんてすぐバレる。
刑期あけの生活は、昔よりも厳しくなっているような気がするし。
それこそ支援者がいたり、身を寄せる裏社会があれば、生きていけるかもしれない。
それもなかったら、野垂れ死ぬか、生活保護で生きることになる。

なんか、難しいよ。今の世の中。
昔より不寛容なのは確かだ。
一旦前科がついてしまうと、やすやすと更生させてくれない。

 そう思うと、自分が死刑囚である、と考えると、ケリつけてくれたほうがありがたいとさえ思える。

* * *

ということで、「なかなかいい話」やと思っていたんだが、Wikipediaでいろいろ調べていると、作者の郷田マモラ、その後アシスタントの女の子に強制わいせつ暴行で実刑判決(執行猶予だが)下っていたりして、人という生き物の怖ろしさを、改めて感じたりもした。
人の世は難しい。

団塊ジュニアのカリスマに「ジャンプ」で好きな漫画を聞きに行ってみた

オススメ度 60点
同世代しばりだ度 100点

なんとなくAmazonに「お前こんなん好きなんやろ?」的に勧められてしまった。
はい、認めましょう。好きです。

看板に偽りなく団塊ジュニア世代のトレンドリーダー達にインタビューしたもの。
新井史郎・高島宏平・川辺健太郎・鳥越淳司・清水康之山本太郎・朝比奈一郎・稲見昌彦・カラスヤサトシ……

東日本大震災を除けば、団塊ジュニアの世代に共通体験は見当たらない。祖父の世代のように戦争も知らず、飢えの記憶もない。全共闘運動も資料でしか知らない。同世代の若者がひとつの目標や理念に向かって連帯することをまったく経験していない。そんなわれわれの世代の共通体験は『少年ジャンプ』ではなかろうか。

共通の時代のアイコンがないこの世代にとって共通軸になりうるものはなにか…ということでジャンプを持ってきているのだが、結論からすると、そんなにジャンプ関係なくない?と思われるインタビューも多かった。

あと、もう少し下の世代だったら、もっと男女比率、女性もでてくるはずだけれども、ここでは女性はでてこない。
ジャンプを軸に時代を斬る、といえば耳にさわりはいいが、ホモソーシャルさがやや鼻につく。

でも面白かったのは、私も1974年生まれで、この本の登場人物が皆同世代であるからに他ならない。
それなりに含蓄はあり、面白かったが、共通素材がジャンプというのもなー。
halfboileddoc.hatenablog.com

これは50代〜60代の話ではあるが、団塊ジュニア世代は、教養主義の凋落と実学志向のちょうど狭間であるのは間違いなく、大学のレジャーランド化は僕らの大学時代も続いてはいた。
我々の共通軸をジャンプにしか置けないというのは、冷ややかに俯瞰すると、結局はそういうことだ。

それは、いいことか?悪いことなのか?
昔の小説などを読んでいると、大学生でもヴァレリーだのランボォだの詩の引用をしているが、では戦前から続いていた教養主義が現在も続いていたとしても、その時に引用される古典が現在も通用しているだろうかと、というと疑問ではある。
世界そのものがかわってしまったし、このデジタルの時代に、18世紀・19世紀の文学の多くはその輝きを失ってしまったから。

 しかしそうはいっても、日本において知の系譜が断絶されてしまったことの意味は大きいと思う。
 理系の技術大国の凋落とも連動している。
 その意味では『ジャンプ、懐かしいな…』とも思うと同時に、自分たちのありようが、日本の凋落の片棒を担いでいる現実も見せつけられているようで、やや薄らさむくなる本でもあった。