半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

「だからあれほど言ったのに」内田樹


内田樹氏もいつの日か重鎮、のような存在。
教授も退官して、凱風館での活動を中心に、自由闊達な感じではある。
内田氏が、体系的に書いたわけではない文を集成したもの。

ひところは、この人の本を結構読んでいたし、今でも教育とか普段の生活に関する洞察とかについては今でもはっとさせられる。
あまり読まなくなったのは、政治的なスタンスに関する発言で、それが自民党から民主党政権にかわり再び自民党政権に変わった過渡期で、フェアじゃないんじゃないかと感じたからだ。



「だからあれほど言ったのに」という言葉には、後段がかならずある。
ある種連歌の上の句のようなものである。

素直に「下の句」をつぐと、
「だからあれほど言ったのに」
「俺の言うこと聞かないから、今の日本はこんなになっちゃった」
と思えてしまう。政権や行政への批判は、実際こんな感じではある。

この人のコラムは、小気味いいのであるが、論理的に重厚な(隙のない)タイプではなく、
ひらりひらりと立論の飛躍があって、そこが鮮やかであったり、意表をつかれるから読んでいて知的興奮を味わわせてくれる。
言語においてもこの人は合気道的だよな。と思う。
その手つきが鮮やかだから、ついついこの人の言うことを「そうだよなー」と思っちゃうけれども、
少し冷静になって批判的に読むと、「AゆえにB、ゆえにC」みたいな流れの途中、立論に無理がないかな、と思われるようなところが
結構気になってくる。

だけど、久しぶりに読むと、なんとなく内田樹イズムみたいな思考原理・行動原理が戻ってくるから不思議だ。
ラーメンのようだ。
「これ美味いんだけど、長い目でみたら体に悪いんじゃないか」と思いながら、ついつい読んでしまう。