半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

”This Man”

意外に、大きな話だと思ったら、小さくまとまったな…という感想。

『BLOODY MONDAY』『ACMA:GAME』の恵広史最新作は、戦慄のサイコサスペンス!「似顔絵の男」による連続殺人を食い止めろ! 2006年、ニューヨークで、ある女性が「眉のつながった男が夢に出た」と訴えた。その男は、他3000人の夢にも現れ「This Man」と呼ばれた。現代、似顔絵捜査員の天野斗が、ある母娘が目撃した「謎の不審者」の似顔絵を描くと、そこには「This Man」の姿が…!

物語の焦点である「眉の繋がった男=This man」の正体が、わからないまま話は進む。
主人公というか狂言回しは「似顔絵捜査官」。
しかし「世界を揺るがす謎の男This man」というイコンは、結果的には主人公の個人的なヒストリーにつながるという、言ってみればセカイ系のお話。

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ま、要するにThis manというネット上のオカルト話が所与のものとしてあるわけ。
(僕は全然しらないんだけど、トイレの花子さん的な有名なやつなの?)
それを素材に、オカルトじみた話を一切介入せず、論理整合性のあるプロッティングの、材料の一つに過ぎないところに、この漫画の悲劇がある。
ストーリーがきっちりし過ぎていて、最後まで読んだら、当初の不気味さが全部種明かしされてしまうのよ。
だからミステリー的には楽しく読めるわけだけど、読後の「余白」がないがゆえに、全然怖くないのである。
作者は、明晰すぎるのである。「This manの得体のしれなさ」を、少しは利用したらよかったのに。

激辛料理を食わされると思ったら、辛味はあるけど、普通に普通に美味かった。みたいな読後感である。

例えば、楳図かずおは、普通の筋のパートを描写していても、作者の頭の中に理解不能部分が多過ぎて、そこはかとなく怖い。
まともじゃないんじゃないか…という怖さ。諸星大二郎にも同様の怖さがあるよね。