半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『あたらしい朝』黒田硫黄

学生&独身の頃黒田硫黄の作品が結構すきだった。
一時期断筆(実は病気だったらしい)していたのだが、その頃の僕は結婚したり、子供が出来たりして、そういうマンガ的文物から遠ざかっていて、
自分としては気になりつつも、忘却の彼方へ。

『茄子』にしても『セクシーボイスアンドロボ』にしても、竜頭蛇尾のようでもあった。

プロットや構図、ダイアローグに、はっとする構成力が光る。
筆ペンのような荒いタッチで、一見ものすごくラフに書いているようで、しかし根底には確かな作画がある。
ものすごい上手い人の、ものすごい速い絵*1

どちらかというと長大な構成力で魅せるタイプではなく、
短距離走者のような、瞬間最大風速の描き手。

物語は、そうですね手塚治虫の『アドルフに告ぐ』の舞台に近い。
日本とドイツ、Uボート仮装巡洋艦
戦前のドイツ、道端で大金の入ったトランクを拾った二人のドイツ青年…というところから、
第二次世界大戦という混沌を舞台として、話が転がり転がった挙げ句、行き当たりばったりなのか、狙いすましているのか、
平凡の青年の非凡な旅が終わる。

大法螺吹きの掌の上で転がされたような、奇妙な読後の快感がある。
戦争時代の閉塞感も、すこんと抜けた青空も。

あと、ドイツが緒戦大勝利、というのを絵で表現するのに、
パチンコ台を打っていて大当たりしているヒットラー(顔はあえて見えない)、としていて、
めっちゃ膝を打った。
これだけでもこの漫画を読んだ価値はあったかな*2

参考:
アドルフに告ぐ
アドルフに告ぐ 1
茄子
茄子(1) (アフタヌーンコミックス)
セクシーボイスアンドロボ
セクシーボイス&ロボ(1)

*1:ちょっと違うけどめちゃくちゃ締切に追われている時の冨樫先生、みたいなものをイメージしてもらえばいい

*2:同様の表現はもう一つあった