半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『女を書けない文豪たち』

翻訳家でもあるイタリアの女性が書いた、日本文学に関する本。
どことなく、アンジェラ・アキ的な風貌の方。
www.kadokawa.co.jp

もともとは源氏物語の世界にどっぷりとハマり、そこから明治大正の文学にも親しむようになったというイザベラ女史。
日本文学は、一般的な日本人よりも数十倍造詣が深い。

文学作品における「女性の描かれ方」を通じて、その文豪たちの性格とか社会背景とかエピソードを掘り下げてゆく、という面白いアプローチをとっている。

明治期の江戸にはなかったヨーロッパの「ロマンティック・ラブ」概念が、社会に膾炙してゆくなかで、明治の文学は大きな役割を当然果たしたわけだけれども、そこにはやはり頭でっかちであったり無理していたりして、いろいろな矛盾を飲み込んで作品は生み出されていった。
王朝時代の恋愛に比べて、明治時代の文豪たちの描く恋愛は、女性のことがわかっていない不器用極まりないもので「恋愛偏差値」がガタ落ちなのはなぜか…

ま、なぜか…というよりはそれぞれの文学作品におけるケーススタディをやっているような感じだった。
かなり雑多な明治文学のいろいろを「男女関係」「恋愛」「明治期におけるロマンティック・ラブの咀嚼」という視点で横断的に論じるというのは、かなり面白いと思ったし、女性の側(あの、フェミニズム的な切り取りではないですよ、客体として描かれていた女性の視点というだけです)からの感想は、当時の前近代性もあいまって、とても面白い。
端的に言って、すごい読みやすい。
日本の読者の知識レベルはよくわかっていらっしゃって、作品の紹介、バックグラウンドの掘り下げなども非常に丁寧。
で、紹介の塩梅が実にちょうどよいと思った。

田山花袋『蒲団』。
本当に残酷だったのは、おじさんのキモさを生々しく描写したところではなく、作中に出てきた「芳子」は文学を志す女性だったのに、その作品や文学者としての才能については触れなかったこと。「若い女性」のアイコンとしてしか描かなかったところ。
(彼女側から描いたこの当時の小説を彼女は書いたらしいが、花袋が「まだ早すぎる」とかなんとかいって止めて、結果として世にでることはなかったらしい)

森鴎外先生は、未練タラタラの達人。谷崎潤一郎もリアルな生活におけるエピソードが、作品に盛り込まれている。
この二人については、エピソードと作品の間の生々しさが半端ないような気がする。
エンタメに徹した、徳富蘆花『不如帰』、菊池寛真珠夫人』、尾崎紅葉金色夜叉』、遠藤周作『わたしが・棄てた・女』。

どのような順番でこれらを紹介するか、苦心されたと思う。
結果的に、するっと飽きずに読めて、なんとなくわかった気にさせられるのは、なかなかのマジックだと思いました。

参考

halfboileddoc.hatenablog.com
これ僕17年前に読んでるんだ。もう何書いてあったか忘れちゃったな…

受験も遠く、明治文学を忘れている方はこちらをどうぞ。多くの作品が、水木しげるタッチの漫画で楽しめます。

halfboileddoc.hatenablog.com
この辺りのゴシップに近いお話は、今回の本のエピソードでも触れられていたように思う。
halfboileddoc.hatenablog.com
まあ、同人誌ではないのだけれども、エンタメに振り切ったわけのわからない小説のようなものは当時もたくさんあって、
やっぱり文豪たちの作品はそれに比べると、非常にクオリティが高いよな。みたいな話。

もうちょっと色々読んでると思うけど、ここにはあげてないんだな…