タイトルですべてを言い表しているような気がするな。
もと自衛隊の陸相、その後大韓民国防衛駐在官となって朝鮮半島のインテリジェンスに関わり、ハーバード大学アジアセンター上級研究員を経て現在は執筆講演活動を続けている人。(すげー)
自衛隊のものすごいインテリサイドの方なんだと思う。
日本では戦後軍事研究は禁止されているので、軍事史に詳しい市井の方はあまりいない。
日本語で軍事関係の著述ができる人は少ないのでその意味では書かれるべくして書かれた本なのかもしれない。
兵站の基礎論から、地政学的な戦略論まで、軍事の初学者にわかりやすく説いてくれる本。
要するに「兵站は大事」
用語の備忘録:
策源地(軍事物資の供給源)・内線・外線
ケネス・ボールディングの「戦力の逓減理論」
マハンの地政学(シーパワー)、ハルフォード・マッキンダーの地政学(ランドパワー)、リムランド
補給幹線(MSR main supply route)
兵站の基礎理論的を紹介したあとに、各論として、一般によく知られている、太平洋戦争・第二次世界大戦(バルバロッサ作戦)・日露戦争・ベトナム戦争や朝鮮戦争、湾岸戦争について、古今東西の戦史を、兵站にフォーカスをあてて解説されている。
わかりやすい。
日本人は兵站を軽視しがち、とよく言われることだ。
例えば太平洋戦争敗戦の敗因となったり、現代でもブラック企業のありようなどが、このドグマの淵源となっている。
しかしこういう戦史を紐解いてみると、なんとなく「意思決定の脆弱さ」でずるずると戦局に引き摺られている(つまり、イニシアチブを取れずパッシブな状況になっている)ことが、兵站軽視の大きな要因なのじゃないかな?と思った。
「なんとなく」で戦火を拡大させると、当然兵站は二の次になってしまう。
* * *
話を変えるが、そういう意味では、最近の「企業の内部留保」って悪いことではないのかもしれない。
もちろん、攻めの局面なら、資金調達と事業計画の両輪で資金をうまく灌流させて事業を拡大させるけれども、明確なビジョンがない場合に、その先に起こりうる変化に対応するために資金を胎蔵しておくことは、兵站という面では一概に批判されることではないような気がする。
というよりは太平洋戦争敗戦後の「日本は兵站を軽視しがち」のドグマが、昭和世代経営者の頭に過剰に刻印されている可能性はあるよな。「羹に懲りて膾を吹く」とも言いますが。
「兵站」を重視しすぎて、戦局の重要なポイントでアクセルを踏み切れず勝利のポイントを逃してしまった……みたいな例はやはり例に挙げておく必要はあるんじゃないだろうか、とは思った。
まあ中長期的な持続戦では、徹底的に兵站を重視した方がうまくいくような気がする。