オススメ度 100点
「やられ音」カラテカについては、非常に僕も同意。度 100点。
- 作者: フジタ
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2018/06/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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世代的にぴったりはまる一冊。
筆者の人生はなかなか壮絶。
小学校入学の直前、母親が急死する。
機を同じくして父親は同級生の母親と暮らすようになり、
著者は突然一人ぼっちになる。小学生にして、
たった一人で生きていかなければならなくなった著者を絶望から救ってくれたのはファミコンだった。
ファミコンをすることで孤独を忘れ、人生を教わった著者の壮絶な半生――。
紹介のとおりで、幸せな家庭が、母の突然死によって一変。
父親は自分のクラスの友人Kの母親(シングルマザーだったようだ)と仲良くなってしまい、自宅には寄り付かずKの住んでいるアパートに。
最初はお手伝いさんもいたようだが、それもなくなり、毎週3万円が封筒に入れられ、それを使って自由に生きていけ、という絶対的に孤独な日々を暮らす。小学生にしてロビンソンクルーソー状態。
家に帰れば一人っきり。誰もいない。
毎日店屋物で食事する小学二年生。かぎっ子なら待っていれば親は帰ってくるけど、僕の場合は待てど暮らせど帰ってこはこない。
(中略)
子供向けの番組が終わる九時ごろになると、急に心細くなった。
ここからは大人の時間で、世間で起きている子供は僕だけなんじゃないかと不安になったりした。妙にセンチな気持ちになり、知らないうちに涙があふれてきたり、気がついたらぶつぶつ独り言を言っていたりすることもあった。
(中略)
今考えれば、自我がボロボロと音を立てて崩壊する寸前だったのだと思う。
そんな彼を救ったのは、ファミコンだった。孤独を癒してくれるだけではなく、努力すれば物事は上達して報われること、不可能と思ったことも注意深く観察すれば解決の糸口があること、無敵と思われた悪役にも必ず弱点があること…
確かに考えてみれば、テレビゲームは、ゲームの背後には作り手がいる。作り手の意思を、コミュニケーションするしかなかった。
上達するのは当然のことであろう。
とはいえ、冒頭の壮絶すぎるエピソードが開陳されたあと、残りの8割は、個別のゲーム寸評である。
どれもこれもやりこみ倒した男からの言葉は、非常に重みがあるっつーか。
マリオブラザーズでの友情崩壊エピソード、ゲーセンで不良に一目置かれた麻雀、お母さんがなくなった日にやった「ベースボール」、ゆとりある暮らしには油断があると悟った「ボンバーマン」。など…… 同世代を経てきた僕にも、ただただ懐かしい。
ファミコンが得意なことでモテようとするような描写もところどころあり、なかなか壮絶な中にも茶目っ気もあったりする。
本のタイトルのネタ元「狼に育てられた少女」
- 作者: A・ゲゼル,生月雅子
- 出版社/メーカー: 家政教育社
- 発売日: 1967/05
- メディア: 単行本
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ファミコンに人格形成の大部分を依存せざるを得なかった、フジタ氏。
これはこれで、狼に育てられた並のインパクトがあるのだと思う。
(ま、ファミコンに母性があるかというと、そこは難しいところなのだが)。
よくぞ、成人し大人になれた…という感慨が深い。
ただ、まあ、こうした壮絶な少年時代を乗り越えたフジタ氏のビルドゥングスロマン(成長譚)として考えると、
冒険に出発し、帰還するというところで完結するのが普通だ。
だから普通の世界に帰還し今では普通の生活を営んで幸せに暮らす…というエンディングならいいのだが、
この人は今でも独身(こんな少年時代送ったら、家庭をもつことも躊躇してしまうわなあ…)でファミコン芸人、コレクターとしてのトレーディングで生活をしている。つまりまあ異界から戻れてきていないのである。
その辺が、まあ話としてはカタルシスを欠くよなあと、思った。
色々なものを欠落したまま、成長でき、現実世界とうまく折り合いをつけた現在は、
すごいとしかいいようがないので、しょうがない、とは思うけれど。