半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『漂流』

オススメ度 80点
ついに島の生活で煩悩を取りきれなかった長平の勝ち度 100点

漂流 (新潮文庫)

漂流 (新潮文庫)

Kindleのセールかなんかで目に留まった。
そして安定の吉村昭
期待を裏切らない。

Kindleを使いたての頃に、青空文庫からKindle文庫化されたやつで、
無人島に生きる十六人」という本があった。

無人島に生きる十六人 (新潮文庫)

無人島に生きる十六人 (新潮文庫)

大嵐で船が難破し、僕らは無人島に流れついた!明治31年、帆船・龍睡丸は太平洋上で座礁し、脱出した16人を乗せたボートは、珊瑚礁のちっちゃな島に漂着した。飲み水や火の確保、見張り櫓や海亀牧場作り、海鳥やあざらしとの交流など、助け合い、日々工夫する日本男児たちは、再び祖国の土を踏むことができるのだろうか?名作『十五少年漂流記』に勝る、感動の冒険実話。

これは明治時代の漁船が難破して漂流した話だが『漂流』は江戸時代。

廻船が難破・漂流してしまった話。

司馬遼太郎の『菜の花の沖』が詳しいけど、江戸時代は鎖国策をとっていたがゆえに、外洋航海のできる船は建造を制限されていた。
halfboileddoc.hatenablog.com
だから、江戸の流通を担っていた廻船群は、外洋の波濤に弱く、櫂や舵が荒天で折れてしまうとなすすべもなく漂流してしまう。そして鎖国である以上、海難事故から生還することは難しかったようだ。

この本の主人公、長平もそのようにして、漂流してしまい、運よく小笠原諸島鳥島に漂着する。
同じ船で漂着した四人の仲間のうち三人は島の生活に耐えきれず死んでしまい(名言していないが、おそらく脚気ではなかろうかと思った)一人で生き抜く。
やがて同じようにして漂着した大阪からの船員、薩摩の廻船の人たちと、無人島で生き抜いていくのだが、
いくらまっても助けの船がこない。そもそも航路上にないのだ。船影など現れるはずもない。

10年ほど経って悟る。
「これはもう脱出するしかない」と決心する長平。

しかし、島には木も生えていないし道具もない。
漂着する船の木切れ・流木を集めて加工し、船を作り上げる。
釘もないが、錨が打ち上げられたのが幸いで、その鉄を釘にして船材の調達に成功する。
なんとか島を離れることに成功し、八丈島にたどり着くまでは、圧巻の一言だと思う。


ものすごいことを成し遂げているのは間違いない。
けれども、その成功は世間に喧伝されるようなものでもなく、故郷に帰っても、白い目で(四人で漂着し、一人だけ生きて帰ったからね)見られる一生だったようだ。

誰にも賞賛されない、英雄的な行為。

子供の頃、人知れず遠くの街まで行き、帰ってこれた時のことを少し思い出した。