半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『会社にお金を残す経営の話』『働き方の損益分岐点』

オススメ度 90点
視点が違うと評価も違う度 100点

あえてこの二つの本を並べてみた。

いわゆる経済学の話ではなく、あくまで実践者、ビジネスマンが、経済理論を即応用するために書かれた本である。
純粋な学問的な興味で経済学を語るのではなく、現実に即した武器としての経済学。

『会社にお金を残す経営の話』は、中小企業の経営者向けの経済理論を交えたコンサルティング

会社にお金を残す経営の話

会社にお金を残す経営の話


お話としては初歩的なものではあった。
きちんと税を納めてきちんと利益を会社に残すことが強い会社を作る唯一の道、というメッセージは当たり前といえば当たり前だが、大事なことだ。
利益がでると、法人税を取られてしまう。
だから節税のために経費で何かを購入したり、何らかの策を弄して黒字をできるだけ赤字に近づける、のは、税法としてのテクニックの一つ。
だが、それは長い目でみると、あまり望ましくない。
きちんと利益を出して、きちんと税金を納めたあとに残る、純粋な利益。内部留保
いっぱい働いても、この純粋な利益というのはそうそう残りはしない。
一握りしか残らない。大吟醸精米歩合みたいなものである。
でもこれこそが、会社にとって宝であり、次の安定した設備投資などの核になる、ということだ。
Amazonにしろ、日本の企業でも昔はダイエー、今ならソフトバンクは同様の戦略をとって、納税よりも資金をうまく回して成長のスピードを鈍らせないが、これは、どちらかというとリスクを孕む行為でもある。超優秀な企業にして初めてその恩恵を達成できると考えた方がいいだろう。

それに、きちんと納税することも、社会にとって大事だ。特定の取引先とWin-Winの関係を結ぶことも大事だが、商売させていただいている社会に対してWin-Winの関係を結ぶことも、重要なことだとは思う。

まあ、そうした綺麗事では必ずしも会社はまわっていかないのも事実ではあるが。




一方『働き方の損益分岐点』。

これは少し前のベストセラーだったような気がするが、
これは雇用者にとっての、実用経済理論。
マルクス経済学をわかりやすく引用している。というか、ここではマル経をまるまる紹介している。
実際、いわゆる主流経済学(マクロ経済学ミクロ経済学)とマルクス経済学との違いは、資本家と労働者との階級闘争を経済学的に論じることができることだったわけだ。マルクス経済学はあくまで社会の実相を描くための補助線であったわけだが、そこから階級闘争を解消し、プロレタリアートに実権を握らせるべきだという社会運動になったのが、共産主義ということになる。
つまり診断(マルクス経済学)→治療(共産主義)というわけである。
20世紀は共産主義の壮大な社会実験であり、共産主義は失敗した。
だが、それは治療が間違っていただけで、診断学そのものが誤りであったというわけではない。
社会的治療としての共産主義ではなく、個人的な解決法として搾取されないように資本家側に回ろうという考え方が、ロバート・キヨサキらのいっていた「金持ち父さん・貧乏父さん」というわけである。

資本主義の中では労働者は豊かになれない。
・給料の決まり方には1:必要経費方式・2:成果報酬方式があるが、必要経費方式では生活に必要なお金しかもらえない
・給与は「労働の再生産コスト」として支払われる。(年功序列はこの構造であれば理解しやすい
・「使用価値」と「価値」の違いについて自覚的である必要がある。
・商品の「価値」の大きさは「社会一般的にかかる平均労力」によって決まる
・商品の「値段」は商品の「価値」を基準に決まり、「使用価値」や需要供給バランスとは関係がない。

* * *

興味深いのは、この二冊、同じように企業での生産活動などを舞台に書かれてるが、片方は資本家としての立場、もう片方は雇用者としての立場で語られる。
前者では「限界利益」を意識して、生産性を高め、利益を生み出すことに自覚的であろう、と書かれる。
他方では、剰余価値を限界まで引き出され、トコトン働かされることで、企業は利益を得るのだ、と書かれている。

同じことであるが、片方では肯定的に、片方では否定的に書かれているのが面白いことだなと思った。
前者では、利益をうむために、月の売り上げのうち、利益をうむポイントを決めて、それを1ヶ月のどの位置で達成できるか明示することで、みんなのやる気が引き出され、収益増につながった、なんてことがかかれ、他方では「労働者が労働者で有る限り、資本家の利益を最大化するまで働かされる」と書かれる。

並べて読むと面白い。
かといって、二冊の資本家と労働者に、明確な階級意識があるわけでもない。立場の差にすぎない。
資本家としての前者の本は、兄がガンで死に、別業種の弟が継いだ話で、弟の新社長は、むしろ資金繰りが厳しい状態から出発する。
資本家が常に安寧で、労働者が悲惨な労働環境というわけでもないのだ。
ただ、起業家はリスクをとるのである。
だからリターンもある。
このあたりの機微はお金を雇用主に任せていてはわからない部分。