半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

かくかくしかじか

東村アキコの半自伝的漫画。
漫画家になるまで、そして美大受験を契機に出会った「日高先生」とのエピソード。

kindleでまとめ読みしたのだが、最終巻だけ出るのが遅くて漫画喫茶で5巻だけ先に読んだりもしました。このほど無事kindle版も発売され、再読したわけです。感想は1-5巻通じてのものです。

若気の至りのような子供時代の妄想とか、黒歴史みたいなものも隠さず淡々ともちだすのは、ある程度地歩を固めた今だからこそ書けるのだろうなと思う。まんが道とかと同じで。

本人も言うように「話を盛らない」率直な文体ですが、ギャグ漫画家としての鋭い視点で物事を眺めてるせいか、面白そうに語っていないだけで、やはり滅法面白い。表現が細やかで日常をうまく切り取って。

漫画家になるという経験は特殊だけど、紆余曲折を経て人生の道が決まる、その過程で、悩んだり、甘い見通しを痛烈に思い知らされたり、思いもかけないことで道が開けたり。そういう体験は皆同じで、だからこそ普遍的な共感を得るのだと思う。

そして、若い時に岐路に立たされた時の行動なんて、人として正しいことが常にとれるわけでなくて、時にひどく利己的であったり、せっかくの好意を踏みにじったりだったりして、それは思い出したくないような、封印すべき過去になる。あまり思い出したくないことを、記憶のとじこめてるひきだしを少しだけ開けて、えいやっと一気に書き上げてるということを作中でも言ってたが、これを正面から向き合って書くというのは、とても勇気のいることだし、だからこそ読者である我々にその切迫感が伝わるわけです。

結局のところ、漫画家としてやっていくことを決めたその道のりと、画家になるのを断念した苦さと、その二つが正直に描かれているから、『まんが道』のような成功した作家の回想録にはない陰翳があるんだと思う。

泣ける、という言葉はあまり持ち出したくはないのですが、心の奥の大事なところに響いてしまう。

どうしよう、こんなの持って行ったら
「天才がやってきた」ってびっくりされちゃう
肥大化した自意識

しかしなんで若い時って
出来るのに出来ないふり
しんどくないのにしんどいふり
楽しいのに楽しくないふり
なんだってできたはずなのに
無敵だったはずなのに

大人になった今
そんなことばかり考えてるよ
先生