- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1991/07/30
- メディア: 文庫
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村上春樹の旅行記。割と短い。
前半はギリシアにあるアトス紀行。このアトス山というのは、完全に外界と隔絶された一種の宗教的避難地になっていて、女性は入れないし、いわゆる外界の快楽主義的なものはまったくない、というキリスト教における(正確にはギリシア正教)聖地のようなところです。
村上氏は、いわゆる宗教研究家の視点をまとわず、きわめてナイーブな視点でこの地上の特異点を観察している。ゆえにその感想は印象批評を越えるものではないし、「アトス修道院ミシュラン」などというのはジョークにしてもちょっとギリシア正教徒を刺激しかねないところがあると思い、少し心配だった。
だが、では村上氏がこうした聖地で全く感慨を抱かなかった、ということにはならない。村上氏は多くの日本人がそうであるように無宗教だけど、唯物主義ではない。彼の長編小説に繰り返し描かれる「あちらの世界」は、アトスという場所での時間の流れなさに通じるところがある。
一方、後半にでてくるトルコの旅は、トルコ国内を車でだいたい一周するというもので、ま、強行軍だ。こちらこそ村上氏をインスパイヤするものではなかったように思われた。去年梨木香歩の作品を幾つかよんだが、彼女がトルコ東部に対して抱く特別な思い入れと同等の感興はこの紀行からは読み取れなかった。