- 作者: 小川洋子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/10/28
- メディア: 文庫
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薄い短編集です。
いろいろな人の短編を今まで読んできましたが、結局のところ短編というものの本質について、わかったような気もするし、わからないような気もします。でも、もう少しでわかるんじゃないか、という気にさせられるのが短編です。
長編小説をオーケストラとしますと短編小説は小編成の室内楽のようなもので、それゆえに、多様性という面では長編よりも振れ幅が大きい。短編小説ではすべてを濃密に描写するスペースが与えられず、それゆえにどうしても優先するもの以外を捨てて描写しなければいけないわけで、そこに引き算の美学があるわけですが、それは作家の現実に対するものの捉え方をそのまま反映しているのではないかと思うわけです。
例えば、ジェフリー・アーチャーとか、アーウィン・ショーの書く短編は、やはり彼らの世界の見方を反映されているように見えます。知性的でわりとよく気がつく人間の視点。
それに対すると、村上春樹も小川洋子も「よくわからない」話を書きます。
では彼らの話が荒唐無稽かというと、そうではなく、それはそれで、彼らの現実感を反映しているように見える。彼らには現実世界は斯くの如く見えるのではないかと。
小川さんの本は、読むと短編の本質に迫ったような、本質めいたなにか生暖かいものがもう少しでつかめるんじゃないか、という気にさせられる。村上春樹の短編にもにも似たようなぬめぬめっとした感覚を抱くような時があるんですけれども、そういう生々しさって、いったいなんなんでしょう。
しかし、それにしても、この表紙絵はないよな。これは売れへんわ。