半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

ジェーン・スー「へこたれてなんかいられない」

昨今は、堀井美香ジェーン・スー女史のPodcast「Over the sun」を愛聴している互助会員なわけであるが、(残念ながら二人の武道館のイベントは平日なので無理だった)、

以前にもジェーン・スーの著作は何作か読んでいて、大変感銘を受けてはいた。
その新作、へこたれてなんかいられない。Podcastでも宣伝していたので読んだ。

うん、面白い。
年代も同じくらいだし、青春時代に棲息していたサブカルチャー界も似た感じであったりするので、とても共感を持って読める。
1990年代のティーンエイジャーが、「失われた30年」をどうにかこうにか生き抜いて気がついたら中年になっていた。
場所も業界も違うけど、同じ時代を生きていた人の安心感がある。
彼女の生活の中で感じる喜怒哀楽。その感情の根底にある社会環境の共通性というものが、読者としてとても親近感を感じる。

ただ、彼女の語る、女性が仕事を切り開いてゆくに際しての苦労については、僕は味わってはいない。
同じ世界に生きてはいるけれども、かたや僕なんか既存の権力構造でいうとバリバリの有利な立場なのである。
とくに、医療の世界なんて、男性性と女性性が通常の社会比率とは異なった形で存在している、めっちゃ特殊なジェンダーバイアスのある社会だ。旧態依然としたシステムではあるし、参入してくる人たちにそもそもバイアスが存在する以上、この業界のジェンダーバイアスをノーマルにすることはなかなか難しそうだ。

Over the Sun 互助会員としての感想は、二人の雑談の中で取り上げられた題材が、きっちりとノイズを除去し、角をとって、しかし面白い部分をきちんと残してエッセイという成果物になっているのがたくさんあった。「あのときのトークが、こういう文章になるのか」。
トークのテンションと、文章のテンションは、もちろん違う。
しかし、どちらもどちらで、捨て難い面白さがあるよなあと思った。

名言多数。

  • ひとり暮らしの女友達から、私が暮らす街の住み心地を尋ねられた。ここに越してきて四ヵ月と少し、働く独居中年女にはすこぶるやさしい街だと、私は力説した。(中略) 裏を返せば、家族連れが暮らしやすい街ではないのだ。
  • 私は休むのが下手だ。サボるのは大得意だというのに。
  • 彼らは生まれつきやさしくなかったのではない。やさしさを用いると、男とみなされなくなる時代に生まれただけなのだ。
  • 思い返すと、誰かを「ズルい」と思う感情の裏には、「私は我慢しているのに」が隠れていることが多かった。しかし、胸に手をあて考えてみると、誰かに我慢しろと言われたわけでもないことを我慢している場合も多々あった
  • おかしい人はみんなさみしいんだ、と。
  • 「自分主演、自分監督、自分脚本の舞台に脇役で出演してくれる人などいない」
  • 孤独は死なないペットのようなもので、飼いならすのは本当に難しい。アマゾンに生息する蛇なんかの比ではない。

「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」から、読めば首がもげるほどうなずけることが多い。
社会的なスタンスが違うから、結論としてはうんと言えないような話もあるけれど、
基本的にこの人の言うてることは信用できる。*1
明晰で、そしてちょっとやさしくて、そしてちゃんと冷静。
でも、Podcastとかで喋ってるのは、めっちゃ楽しそう。

*1:だから「そっか、自分の考えが違ってたのかもしれんな」と素直に思える