半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

誰かには自分と同じ人生があることを実感させられる『平安貴族列伝』

何かのWebで紹介されてて読んだ。
面白かった。
著者のひかえめな小人物自虐コメントにクスリとさせられるけど、若くない自分も大いに共感するなあ。

Google Mapが出た時、地図の縮尺を連続的に変えて遊んだことはみんなあるだろう。
自分の家の周りのご近所の地図から、ぐーんと引いて、地球まで連続的に俯瞰すると、
例えば飛行機の窓から見える地形も、寄って見れば一つ一つ自分の家の近所と同様に誰かが住んでいる。その誰かも僕らと同じように家族や友人がいてそれぞれに幸福や悩みを抱えて生きている。
そんな人々が無数に存在して見渡す限りの景色が存在していることを概念ではなく具体的に示されると圧倒されてしまう。

歴史もそう。
教科書のような整えられた形では実感できないが、歴史は語られない無数の市井の人々が、我々と同様に苦しみ・もがき・あるいは幸福を感じて生きた経験の堆積で構成されている。
そういうことをこの本で強烈に意識させられた。

平安貴族の薨伝(亡くなった時点で遡って伝記形式で簡潔に人物を語る)から著者が思うところがあったものをピックアップして紹介した本。
もちろんそれだけではバックグラウンドの知識が全くない我々には???である。
何しろほとんどの人名、知らないんだから。
なので、系図とか政治状況を簡単に説明してくれている。これがすごくわかりやすい。
現代の我々と地続きではない平安貴族。
しかし戦乱がない時代。組織や人事で右往左往してしているさま…となると現代のサラリーマン社会っぽい感じなのである。

もちろん原文はほとんどが事績の記録で新聞の訃報欄程度の情報しかない。
著者がバックグラウンドの情報をつけたし、何気なく書かれた一言を深掘りして、パーソナリティを浮かび上がらせている。
これが作者の力量で、Youtube解説動画みたいなもんで、素人の我々をわかった気にさせてしまう凄さがあると思った。

出版物としては今年の大河ドラマに便乗している感は強いが手間のかかったいい本だと思った。

知らない誰かも、その人の人生を、僕と同様に、一人の人間として生きているんだよな。
ということを改めて思った。

いや、当たり前のことなんですけど。
理屈ではなく事実として見せつけられるとなんか感慨ふかいのだ。