- 作者: グレッグ・イーガン,山岸真
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2004/10/28
- メディア: 文庫
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文字もちょいと小さいし、「初心者おことわり」のハードコア臭がぷんぷんしますな。
実際、内容も圧倒的、フフフ、圧倒的じゃないか、わが軍は?的です。プロットはともかく、細部の近未来感の精緻さこそが、この小説の読み味をまさに決定していると思う。
僕は中学生くらいの時にギブスンの『ニューロマンサー』を読んでノックアウトされたクチなんですが、そういう、一センテンス当たりの圧倒的な情報量という点ではサイバーパンク小説という系譜の直系の後継者といえるでしょうか。
しかし、デジタルガジェットなどの描写はそうだが、いわゆるSF的な理論的背景に関しても抜かりはない。A.C.クラークのようなメインストリーム系の、いわゆるファインなSFとして読んでも読み応えがある。実際、今回の作品の焦点は難解な基礎理論が話の中心で、50%も理解できたかどうか。
グレッグ・イーガンは、21世紀のSF作家だなあとつくづく思う。
例えば、ウェルズやブラッドベリなどの古典SFには、今でも僕らを惹きつける何かがあるわけですが、そういうのに憧れて、今、似たようなSFを書き始めるのは、さすがに時代遅れといえるでしょう。それは厳密な意味でSFとは言えない(星新一のような時代を超えたミニマリズムならともかく)。今SFを書き始めるなら、このレベルまで先を行く必要があるのだと思うと気が遠くなります。
逆に、グレッグ・イーガンになるには、どうしたらいいか。
1:NatureなどのNews and Viewsを読み続ける。
2:コンピュータ関係の新製品ショー(COMDEXやCES)に出席しつづける。
3:今までのSF小説を読みまくる。
どれが欠けても駄目な気がする。
1だけだとただのサイエンスライターだし、2だけだとただのモノ紹介記事だ。1+2は堺屋太一の未来予想図みたいなダサダサの記事になるだけだし、2+3は時代遅れのサイバーパンク小説だ。
しかし、プロット的なことを言えば、ユニバーサルな事象に、超個人的な事情が絡んでくるという、物語の基本構造は『宇宙消失』と何が違うんだろうか、と思ったり思わなかったり。
ところで、グレート・バリアー・リーフの好きなクラークと、シドニー在住のイーガン、オーストラリアにはSF作家をインスパイヤする何かがあるのだろうか。