- 作者: 内田百けん
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2002/10/01
- メディア: 文庫
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ま、いつもの百輭節で、屁理屈のような独り言のような愚痴のような、のらりくらりとした口ぶりで、だらだらと旅行をしている。別に観光名所がどうとかそういうのはともかく、向かいに座ったやつが膝を押しつけて嫌だなぁとか、気の利かない女中だなあとか、そういうどうでもいいことをぶつぶつ呟く旅だ。しかし、屁理屈の口ぶりはいかにも家庭婦人に疎まれそうな感じである。たとえば僕が奥さんだったら、やだなあこんな旦那と思うだろう。屁理屈居士だ。
戦後すぐとはいえ、昔の鉄道の旅は今よりもずっとワイルドだったんだなぁと思う。当然のように書かれているものが、現代の我々と少し感覚が異なる部分も感じた。もしぼくが鉄ちゃんであれば、この本にはもっと早く出会っていたのだろうかと思うと少々惜しくもある。
しかし、百輭先生は権威というものが嫌いで、極力地方の名士と会うことを嫌っていたのだが、だんだんなし崩しになっていたし、宿の紹介なども同乗の山系氏の属する国鉄の管理部にお世話になっているわけで、まぁ、文化人が無目的に遊山旅をして、それを文にして稼ぐ悪い手本になった感もなきにしもあらず。それどころか、今の「観光旅行」というフォーマットにも少なからず影響を与えているようにも思える。天国の百輭先生も、きっとまずいことしちゃったなぁと頭を掻いているに違いない。