半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

Jay Ashby(ジェイ・アシュビー)について

Return to Ipanema

Return to Ipanema

このCDを買ったら、Jay Ashbyがサイドメンに入っていたので取り上げてみた。
今回の記事は、そもそも届く対象が非常に狭いものだと思いますが、すいません。

* * *

Jay Ashby
日本ではあまり知名度がないトロンボニスト。
CD買いの自分のアーカイブに、ほんの時々だけ顔をみせる、はぐれメタルのようなキャラなのですが、僕には非常に印象に残るミュージシャンでした。なぜなら「こんな風に吹きたいな」という自分のイメージに、ほぼ過不足ない音だからだ。

例えば、Conrad Herwigというトロンボニスト(デイブ・リーブマンと共演したりするめっちゃコンテンポラリーな人です)には一時憧れていた時があったが、ハイノートや激早なパッセージも含めて、自分がそれを演奏しているというイメージがわかない。
youtu.be
絶対でけへんやろこんなん!


対してJay Ashbyは、基本的には歌う系のフレージング。スムース。
パッセージの早さなどは憧れるに足る存在でありながら、アクセントやイントネーションは控えめで、僕の目指しているのに近いし、フレーズは新奇さはないが、とにかく心地よい。音色も自分の好み。
自分のタイプの上位互換、と言ってもいいくらい。

Jay Ashbyについては、今回バイオグラフィーをネットで収集してみたわけですが、
・Brazilian Musicとの親和性が高い
・基本的にはマルチプレイヤー
・Producerでは、Latin-Musicで5度のグラミー受賞(すごいね!)
・オバーリン大学で講師とかしている

だそうだ。
Claudio Roditiと共演が多い印象がある。私のCDのアーカイブの中でも、Roditiがらみだった。
たとえが悪いが、B型肝炎存在下でしか感染しない、D型肝炎ウイルス(HDV)みたいなものだろうか。

Return Voyage

Return Voyage

これ、多分神戸元町の「りずむぼっくす」にてJazzのCDを大量に漁っていた時代に出会ったやつ。
音色のヌケのよさが印象的なTp/Tbによる二管の佳作。これもClaudio Roditi。サウンドは申し分ないのだが、オリジナル曲の曲名のパチモン感だけは手放しで褒められない。Whisper Yes、とか、Return Voyageとか、Jay by Jayとか。これ
こんなアルバム友達に勧めたらバカかと思われるだろ!でも内容はいい。

DOUBLE STANDARDS

DOUBLE STANDARDS

これ、購入履歴調べたら 2007年だった。もう12年も経つんだ…
Roditiがスタンダードとかやっている盤。

動画を漁ったら、結構ありましたね。
youtu.be
これは、ちょっとエイトビートのIn a sentimental mood。
こういうの聴くと、Nils Landgrenっぽい感じもしますね。
youtu.be
これは先ほどのアルバム中のオリジナル曲、Jay By Jay。ゆったりしたメロディーのファストテンポの曲という、やる方にとってはまあまあ地獄なやつ。
2分くらいからトロンボーンのソロです。
これのソロコピーしたなーと懐かしく思い出します(いやなかなかできないんですけど…)。

『オトコのカラダはキモチいい』二村ヒトシ・金田淳子・岡田育

2日連続若干尾籠なネタで。
AV監督、BL専門家、文筆家・評論家の三人による鼎談。
トピックは、主に「やおい穴」「雄っぱい」など。

やおい穴

やおい穴」と俗称される、ボーイズラブ(BL)での官能器官。
これは、そもそも肛門なのか?そうではないのか?というところから話ははじまる。

腐女子の間では昔から「お尻のあたりに、男同士がうまいこと結合できる穴があるらしい」という共通認識はあったものの、これまで深くは追求されてはこなかった正体不明の「やおい穴」(中略)
そうそう、やおい穴って、だいたいが触られると「濡れる」ものなんですが、「潤滑油を使っているのか?」「肛門から何か液体を出しているのか?」など
ツッコミどころが満載なんです

やおい穴の解釈は様々なようで、
・想像上の器官であり、あくまでも愛の交接器官であり、断じて肛門などではない説(チンコとアナルの間にある、そこで妊娠するという過激思想も…)
・あれはまあ、肛門なんだけど、美少年がウンコとかしないよ説
・肛門だけど、汚くないように処理してますよ説
・肛門で、ウンコもつきますよ説
掲載されてたやおい穴派閥一覧は、もっともっと細かく分類されていて、おもしろかったけど、だいたいこんな感じです。
年代や、BLのカテゴリーなどによってもだいぶ違うそうで。
その他、やおい穴性交の歴史(『トーマの心臓』とか源流の少女漫画とかの流れ)、実際に前立腺刺激の気持ちよさ、ドライオーガズムなどについてのディープなお話。

雄っぱい(男の乳首)

あとは男の乳首は性感帯かどうか。
こっちは、AV監督&男優の二村ヒトシが、議論のイニシアチブを握っておった。
この方はメジャーAVで男の乳首責めをメジャーにしたと公言する(あくまで自称で、真偽のほどは定かではないが、面白いからいいや)方で、まあそれはそれで説得力があってよかった。
昔から乳首への刺激が勃起に繋がる事実は認識されていたので、待ち時間に勃起を持続しなけりゃいけないような時に、心優しい女優さんは乳首をいじったりしてくれていたそうな。ただそれはあくまで撮影外の出来事だったらしい。
だから、二村監督が男乳首いじりをフォーカスした作品を撮ろうとした当初、乳首いじりのシーンの瞬間、カメラさんが勝手に撮影止めたと判断してカメラ止めたりしてたらしい。
そんな苦労(?)を乗り越えて、二村監督は男乳首責めAV作品をリリースしたらしい。
へー(棒読み)
あとは、漫画での女性のおっぱいの話ですが、

  • おっぱいは「昭和おっぱい」と「平成おっぱい」の二つに大きく分かれます。昭和おっぱいはとにかく「丸い・固い・動かない」。平成おっぱいは「ゆがむ・柔らかい・縦横無尽」
  • 「乳首残像」(おっぱいの揺れにあわせてヘッドライトのように乳首の残像が残る表現)の初出は奥浩哉先生(HEN)(もともと奥先生は大友克洋先生にすごく影響を受けているので「大友作品のように新しい表現をなんとか生み出したいと思う形が乳首描写につながったのではないか」とおっしゃってました)
  • すくなくとも「ハレンチ学園」を描き始めたころの永井先生は童貞であった可能性が高いと言われています。当時の各社の担当編集者たち、さらに年長の友人であるSF作家の小松左京筒井康隆が、作品に結晶した少年のようなハレンチさが失われぬよう永井豪に絶対に初体験をさせるまいと「豪ちゃんの童貞を守る会」を組織していた、という伝説を聞いたことがあります。

この辺りは試験に出るので、ちゃんとメモしておくように。

* * *

いかにも現代社会らしい、何一つ世界平和や戦争・経済食料問題・人口問題とかとは関係ない話題が、どこまでも深掘りされているさまに、ある種の懐かしみを感じた。日本は泰平で平和だぜ!って感じ。サブカル万歳!

『ダーウィンの覗き穴』

Web記事で取り上げられているので買ってみた。
性行為、生殖器の進化を漫画版で活写したもの(原作は本らしいが)。

オチンチン、おマンマン、おセックスに関する本。

生殖器の進化は、比較的短時間で起こりうる
・したがって近縁種でも生殖器の形態の多様性はかなり高い
 (近縁種同士の種の分離につながっている可能性はあるのかもしれない)
・生殖行為の意味は、遺伝子のシャッフルで多様性を維持する、遺伝子エラーの蓄積の淘汰を行うためという説
・雄・雌の存在は、細胞小器官(ミトコンドリアなど)が、両方の親から引き継がれることによる衝突を回避するためではないか、という説。


ダーウィンは、生殖器の形態に関しては進化論の中に含めていなかったらしい。
しかしそれはビクトリア朝時代のイギリス紳士として、品格に遠慮したのかもしれないぞ、ということであった。

各論では、風変わりな性のエピソード、
イカの精包(突き刺さる)、フジツボ(体長より数倍長いペニス)、感覚便乗の話など盛りだくさん。

スラスト(ピストン運動)は射精に必要なのではなく、体内求愛行動の一つであるらしい。
種によっては雌は、体内に射精された精子を、選択する機能を備えている。
雄も、他の雄の精子を掻き出し排除する機能を有する種もある(ヒトも、実はそう)。
ドーキンス利己的な遺伝子」の概念を援用すれば、同種間の個体淘汰は、確かにありうると思う。

Web紹介記事には生物学者の素描にはこだわりました、と書かれていたが、確かにそこは良い意味でよく書けています。
ダーウィン、グールドあたり、確かに最高です。

面白い。おもしろかった。
性に関する本ではあるが、読後感は「生命ってすごい!」というシンプルなもので、永遠の脳内中学生男子である私(別名ムッツリ男爵)をもってしても、この本から劣情を導き出すことはかなり難しかった。

専門家を目指すのでなければ、性行為に関する自然科学本としてはもうこれ一冊で十分ではないかと思う(雑学のリソースとして)。知らんけど。

『人生の結論』小池一夫

オススメ度 90点
あとにしてみれば、この人の原作、無理のあるお話まあまああったけど度 80点

人生の結論 (朝日新書)

人生の結論 (朝日新書)

もう後期高齢者になってTwitterとかSNSに意欲的に進出した人といえば、クライングフリーマンの原作者、小池一夫だ。
つい先日亡くなられてしまったが、若者に切れたりもせずに、上手な距離感でTwitterをしていたことを思い出す。

現代の大人は子供っぽい。もっと成熟した大人の考えをしましょうよ、ということを淡々と(この淡々と、というのも大人の作法だ)語る。
・人付き合いは自分が自分を正しく評価しそれを受け入れることからはじまる。
・人は自分が自分をおもうほど、自分のことを思ってはくれない
・自分を苦しめる縁など一度切ってしまえばいい。本物の縁ならば、また繋がります。一度縁を切った人は、何か気に入らないけど捨てるにはもったいないからもう一度着るかもしれないと取っておいた洋服に似ている。もう一度着てみるとやはり同じ理由でしっくりいかずに結局着ないのです。
・一見矛盾しているように感じますが「許すが忘れない、しかし受け入れる」
・一流同士は決して群れません。二流同士は慰めあいます。一流同士は競い合うのです。
・怒り方には、本性が出る、教養がでる、生まれ育ちが出る。全てが出ます。
・怒っていても、ドアは静かに閉めるのが成熟した大人
・「仕事ができる」のではなく「仕事ができるようにみられたい」という感性の人たちは意外にたくさんいます。
・人の話を雑に聞く人が、期待を上回る仕事をできたことはない
・「技術」とは心が折れたり辛苦が成功に繋がらないときにでも、ある一定以上の仕事を維持することができるということです。
・あの時の自分にできたことができなくなる」という覚悟と、「あの時に自分はあれだけのことができた」という自信。成熟した大人の仕事とは、この二律背反を受け入れること
・あなたを大切にしない人を、あなたが大切にする必要はない
・結局は自分より弱いものをどれだけ慈しみ育てられるのか、というような、自分以外の他者に愛情を注げるということが成熟した大人なのです

若い時にとがっていた人が、老成して、鋭さを隠し持ちつつ丸くなっているようです。
平易な言葉ではあるが、心に深く浸透する。

まあ、自分も老いの坂をくだりつつあるからなのかもしれない。
若い時の自分なら、もうすこし反発したものだろうか。

* * *

谷沢永一『人間通』

人間通 (新潮選書)

人間通 (新潮選書)

などど、結論が似通ってくるのが面白い。
(この本は20世紀においては私の世渡りマニュアルの中でもっとも重要なものであった)

人生の酸いも甘いもかみわけた人の言うことは、だいたい似通ってくる。
それが本質なんだろうと思う。

『督促OL修行日記』

督促OL 修行日記 (文春文庫)

督促OL 修行日記 (文春文庫)

金融督促、未払い者への電話督促の体験記。
ネット黎明期に「サポセン」とか、そういうのあったなーと思ったりもする。
思えば、市井の職業日記みたいなものが、Blogの第一歩だったと思う。*1
今にして思えば、プロフェッショナリズムをうたうのであれば、守秘義務みたいなものとの競合は避けがたいわけで、なかなか難しいところだとは思う。厳密にコンプライアンスを問えば、こういう立場の文章って微妙な立場に直面する。

しかし「こういう大変なことがあるんですよ、大変ですねー」という話ではなく、きちんとこの主人公は苦境の中、成功をつかんでゆく様が、存外に面白いのである。
最初は部署の中でダントツ最下位の成績しかあげられなかった筆者。
しかし、怒られる前に謝る、怒られて体が萎縮した時に、下半身(足とか)をつねったりして緊張を解く、などの初歩的な回避策に始まり、一歩一歩タスクに最適化してゆくのだ。
属性による得手不得手はどうしてもある(女性には怒鳴り散らす男性とか)ので、難しいケースはそれが得意な人と交換して無理をしないとか、ツンデレ的に厳しいことをいっていても最後のクロージングはやさしくいって悪い印象をいだかせないとか、どんどん手法は洗練してゆく。
やがて、客の傾向を分類して、分類によってアプローチを変えるとか、他者の目にも耐えうる業務マニュアルになってゆくのだ。

なんか、クレーム困ってまーす、という業界こぼれ話ではなく、この女性のビルドゥングスロマン(成長譚)になっている。
同時に、これは就職氷河期の話であり、20世紀の昭和の残滓香る職場が、21世紀にむけて、現場の努力で少しずつかわっていく、その記録にもなっているように思った。
職場って勝手に変わっていったんじゃなくて、その場にいる人間の普段の努力で、今のように変わっていったよな。
はざま世代呼ばわりされている僕ら世代だが、多分こういう雪かき作業をしていたんだ、僕らは(もちろん僕らだけじゃないけど)
hanjukudoctor.hatenablog.com

* * *

クレーム対応は、「感情労働」とでもいうべきもので、例えば医療・介護にあるような対人援助職も例外ではない。
この本に書かれている気づきと業務改善は医療の現場でも同様だなあと感心した次第。

*1:実際初期の私のWebsiteも研修医日記、みたいな感じのものだった

『ヤマ・ニヤマ』

オススメ度 70点
素直に受け止められない自分は汚れた大人なのか度 80点

なんか、雑誌の書評っぽいコーナーでとりあげられていたので買った記憶が。

ヨガ。
諸外国におけるヨガは、フィジカルエクササイズの面ばかり取り上げられているけれども、もともとは一つの思想体系であったりする。(この辺、禅と座禅に似ている)。

で、ヨガの思想、いいこと=ニヤマ、あかんこと=ヤマ を紹介している本。
ヤマ:日々の中で「してはいけない5つのこと」を学び、実践する
・アヒンサー 傷つけない(非暴力)
・サティヤ 嘘をつかない(誠実)
・アスティヤ 盗まない(不盗)
・ブラフマチャリヤ やり過ぎない(禁欲)
・アパリグラハ むさぼらない(不貪)
ニヤマ:毎日の中で「するとよい5つのこと」を学び、実践する
・シャウチャ(清浄)
・サントーシャ(満たされていることにきづく)
・タパス 精神統一してやりとげること
・スヴァディアーヤ 学習する(自己の探求)
・イシュワラ・プラニダーナ 全てを信じる。

平易な言葉でそれぞれ説明されています。
読んでいると、なるほどなるほど、とは思う。
結構短くて、さらっと読めます。

ま、でも、複雑に入り組んだ現代社会を生きている自分は、これ読んで「ああ自分の生き方も修正しないといけないよなあ」とは思うものの、3-4時間で、そういう殊勝な思いは消えてしまった。折に触れ読み返さないといけないかもしれないけど、
今の自分は俗世に生きているので…

『完璧なリーダーは、もういらない』

オススメ度 80点
漫画読みたくなっちゃうじゃん度 90点

宇宙兄弟 「完璧なリーダー」は、もういらない。

宇宙兄弟 「完璧なリーダー」は、もういらない。

リーダー論、というか、「宇宙兄弟」論というか。
僕は宇宙兄弟はモーニング連載をとびとびに読んでいるだけなのですが、この本はムッタを代表とするような等身大なリーダーシップのありかたを書いた本。

・日本の組織の形はトップダウンによるヒエラルキー型が一般的→ネットワーク型のリーダーシップはどうか。
・Want思考でリーダーシップを磨く
・心をゆさぶる「シェイカー」を目指す
・「愚者」風リーダーシップは、賢者を目指さないところがミソ。賢者風リーダーシップは、しんどい。
ヒエラルキー型は愛情と信頼で機能する。ネットワーク型は「規律と秩序で機能する。(一見、逆に思えるが…)

こういうリーダーシップ学のエッセンスを、宇宙兄弟のエピソードを拾い上げて紹介している。
宇宙兄弟を読んでいる 20-30代のヤング・ビジネスマンにとっては、入って行きやすいかもしれない。
その意味ではいい本だと思う。
これを入り口に、さらに成書的なものを読むと理解しやすい、その入り口の本としては最適かと思う。

僕は、どうだろう。
狭間の世代だからなー。
宇宙兄弟愛読はしていないし。

むしろ宇宙兄弟を改めて読みたくなった。