- 作者: 榎本まみ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/03/10
- メディア: 文庫
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金融督促、未払い者への電話督促の体験記。
ネット黎明期に「サポセン」とか、そういうのあったなーと思ったりもする。
思えば、市井の職業日記みたいなものが、Blogの第一歩だったと思う。*1。
今にして思えば、プロフェッショナリズムをうたうのであれば、守秘義務みたいなものとの競合は避けがたいわけで、なかなか難しいところだとは思う。厳密にコンプライアンスを問えば、こういう立場の文章って微妙な立場に直面する。
しかし「こういう大変なことがあるんですよ、大変ですねー」という話ではなく、きちんとこの主人公は苦境の中、成功をつかんでゆく様が、存外に面白いのである。
最初は部署の中でダントツ最下位の成績しかあげられなかった筆者。
しかし、怒られる前に謝る、怒られて体が萎縮した時に、下半身(足とか)をつねったりして緊張を解く、などの初歩的な回避策に始まり、一歩一歩タスクに最適化してゆくのだ。
属性による得手不得手はどうしてもある(女性には怒鳴り散らす男性とか)ので、難しいケースはそれが得意な人と交換して無理をしないとか、ツンデレ的に厳しいことをいっていても最後のクロージングはやさしくいって悪い印象をいだかせないとか、どんどん手法は洗練してゆく。
やがて、客の傾向を分類して、分類によってアプローチを変えるとか、他者の目にも耐えうる業務マニュアルになってゆくのだ。
なんか、クレーム困ってまーす、という業界こぼれ話ではなく、この女性のビルドゥングスロマン(成長譚)になっている。
同時に、これは就職氷河期の話であり、20世紀の昭和の残滓香る職場が、21世紀にむけて、現場の努力で少しずつかわっていく、その記録にもなっているように思った。
職場って勝手に変わっていったんじゃなくて、その場にいる人間の普段の努力で、今のように変わっていったよな。
はざま世代呼ばわりされている僕ら世代だが、多分こういう雪かき作業をしていたんだ、僕らは(もちろん僕らだけじゃないけど)
hanjukudoctor.hatenablog.com
* * *
クレーム対応は、「感情労働」とでもいうべきもので、例えば医療・介護にあるような対人援助職も例外ではない。
この本に書かれている気づきと業務改善は医療の現場でも同様だなあと感心した次第。