半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『もしもし、てるみです』

おススメ度 60点
PTAに怒られそう度 70 点

なんともいい難い読後感、の本。結構前に買ったんですけど、なんとなくそのままになってました。
雑誌連載のときはいつも、巻末だった記憶があります。
アンチネットを標榜する「もしもし堂」の携帯。

「ミライフォン」が普及し、ほとんどの人がSNS「トモッター」や「ニャイン」でつながりあっている時代。
そんな中、独自の路線を貫く電話会社「もしもし堂」のでんわショップで働くてるみさんは、ネットからは離れて生きるまさに現代のミューズ的存在。
そんな彼女に恋する中学生・鈴太郎は「もしもし堂」の電話機を購入。てるみさんと一緒にネットから遠ざかる生活をスタート!
これは、ネット依存の現代社会に疲れた人々が求めた、もうひとつの“つながり”の物語である!!

もしもし堂の店員てるみさんに恋をする男子高校生鈴太郎。初々しく、年上の思慕するお姉さんには敬語とタメ口の間のような言葉遣いが初々しい。けどクラスの女子の半数くらいとはヤッているらしい。
漫画家、サポートセンター、くろちゃん。

メルヘンっぽい丸っこい描線の世界なのに、深刻な話だったりエロだったり、そのスカシ感が新鮮。
一応ギャグマンガっぽいオチは回ごとについているので読みやすいけど、例えば、子供の目につくところに置いておくのはちょっと…的なやつ。

Book of Fishes 魚図鑑

オススメ度 80点
でもカラオケで歌うかなぁ…多分歌わない度 60点

魚図鑑

魚図鑑

妻は、大学の軽音時代にならした人でして。ドラム。あとピアノ、ギター、歌もやります。ジャズ研純粋培養と違ってポップス・ロック畑出身。
今は音楽からはやや遠ざかっているけれども「最近サカナクションが気になるのよね」というので、いきなりベスト盤みたいなのを買ってみた。
妻が結婚する前に活動していたバンド「こぶなしラクダ」*1を彷彿とさせるのもあるんだろうなと思った。

僕はこの手のテケテケ感のあるサウンドは、今ひとつピンとこない。

サカナクションといえば、僕はこのPVが心に残っている。
youtu.be
バッハの旋律を夜に聴いたせいです…コードに対するメロディーののせ方、独特だよな。
このPVにあるぬいぐるみ5人分身の術は、よく会話の中の例えでだしてしまうのだが、このPV知名度低いよな。わかんねえよ。

メロディーラインも独特というか、テクノポップの語法だったりする。
サウンドはエレクトロ・ポップというか、そういう味付けではあるけど、バンド、というアイデンティティも大事にしていたり。
なるほど、なるほど。

めっちゃディープなファン向けの情報満載のこの作品、事前情報を全くしらない僕には、いささかトゥー・マッチではあったものの、とてもおもしろかった。
なんか10年来サカナクションを追いかけていたような気持ちにさえ、させられた。
うん、楽しめました。

ボーカルの方、ビジュアル的にはいわゆるボーカルの人にありがちな、スター性、外向性、強欲性はほとんどない。
含羞と思索に満ちた哲人といった風情。
目の色が深い。
自分のあり方に自覚的で、無理をしすぎず、譲られない一線をもっている。
ボーカリストというよりはミュージシャン、というかクリエイターなんだよな、と思う。

*1:いまやこぶなしラクダのメンバーも全員こぶつきである

『ある日、アヒルバス』

ある日、アヒルバス (実業之日本社文庫)

ある日、アヒルバス (実業之日本社文庫)

人情噺、ですね。ひとことでいうと。

東京の「はとバス」的な中小観光バス会社のお話。そこにいた「デコ」さんというバスガイドが主人公。
女性の成長譚(ビルドゥングスロマン)。
脇役も魅力的で、いかにもテレビ的な映像が目に浮かぶ、読みやすい一作となっております。*1
スカイツリーがまだ建設中、というところに時代を感じました。
紆余曲折あって、しかし周りの愛すべきキャラクターにも助けられ、デコさんは、楽しくバスガイドとして成長してゆくのでした。

若いっていいなあ。
最近は歳をとって、甘い甘いこういうお話も、楽しんで読めてしまう。
さすがに涙を流しまではしないが。

*1:ちょっと調べたらTVドラマ化もされているんですね。

『死都日本』石黒耀、『日本沈没』小松左京

オススメ度 90点
広域災害の専門家は全員読んだらええんちゃうの度 100点

『死都日本』石黒耀

死都日本 (講談社文庫)

死都日本 (講談社文庫)

Kindleにて購入。何ヶ月か寝かせていたのだが、読んでみたら、おもしろくて、一気に読んでしまった。
著者は火山マニアの内科医(これもすごい経歴だな)。

霧島火山噴火、いや先史時代の加久藤火山が噴火したらどうなる……というディザスター小説。
古来地震で滅んだ国はないが、火山では、国家の滅亡はしばしばみられる。
もしピナツボ火山(火山爆発指数6)以上の、火山爆発指数7の火山が噴火したら、どうなるのか。

火山国家日本において、噴火は珍しいことではないので、初動の読みを間違える地方自治体の惨状が、滑稽に描かれる。
霧島火山噴火で、鹿児島市が危険にさらされることはないだろう…と、確かに僕も思うが、超大規模噴火であれば、鹿児島湾を超えて、火砕流鹿児島市に到達してしまうし、おそらく50mくらいの堆積物に覆われて、全滅してしまう。という。
ラハール現象(LAHAR)や、沈降火山灰などの問題で、日本の多くの地域が住めない状況になってしまう、と。
試算では、火山のあとの小氷河期にて、全世界で億単位の死亡者がでるのだとか。

にわかには信じがたい話だが、確かに超巨大火山噴火だと、そうなるのかもしれない。
小説の最後の方では、ゴジラキングギドラ、怪獣大決戦みたいに、この先どないすんねん、という状況になる。
が、そこで首相の演説に、作者の思いが込められていると思うが「沖積平野に築き上げる都市文明は、日本では持続不可能なのではないか、都市づくりのコンセプトを変える必要があるのではないか」と述べていて、非常に説得力があった。
神の手作戦、日本資産の乱高下を利用する相場調整なども、おもしろかった。

ただ、この小説、初出は2002年なんだよね。3・11にこういう教訓が生かされているのか、と考えると、なかなかこういう警世の小説って、現実を変えるには至らないのだなあと嘆息した。

南海トラフ地震BCP訓練とかする人達は、とりあえず全員これ読んだらいいと思った。

この手の小説は、登場人物の手を借りて、現在の政治状況の作者の解釈を代弁せしめるものが多いが、アメリカの大統領首席補佐官の言うこと、割と面白かった。

「我々の友人である日本は、このアメリカの立場をよく理解し、首相みずからが『アメリカの不沈空母と化す』とまで約束してくれました。おかげでアメリカ軍は国内より安い維持費で日本に駐留し中ソに睨みを利かすことができたのです。自己保身のためとは言え、あの国の政権がどれほどひどく国民から搾取して我々に貢いでくれたか考えると、私は少々日本国民に気が咎めたくらいです」

身も蓋もないなあ。

日本沈没小松左京

対して、この手のディザスター小説の金字塔、小松左京の「日本沈没」をついでに読んだ。
これもKindle日替わりセールだった。『首都消失』は高校生の頃読んだ記憶がある。
この小説では日本は完全に海没してしまい、ディアスポラを余儀なくされる。
第二部ではその後のことが書かれているそうだが、これはまだ読んでいない。

高度経済成長真っ只中の日本であり、死都日本とは政治状況も異なり、今読むと、古さを感じるところも多いが、すぐれた仮定小説だと思う。
まだまだ経済的には日出ずるニッポンという描写が、とにかくみずみずしい。この当時はノストラダムスの大予言だとか、こういう日本沈没だとか、核戦争の恐怖だとか、経済発展、現代文明の享受の反面、そういう不安感に横溢していた時代だ。
冷戦の時の「核戦争」に対する漠然とした恐怖感って、同時代人には通じるけど、10ほど年下の人間にはもう話してもピンとこない。

『知的複眼思考法』苅谷剛彦

オススメ度 70点
ちょっと重め度 60点

一言でいうと「Critical Thinking」の概説本。
スタンフォードとかハーバードではなく、現在オックスフォードの教授だと。

東大からノースウェスタン大学へ留学し、東大大学院教育学研究科教授を経て、オックスフォード大の教授。

教育学の専門家であるが、「自分の頭で考える」というのはどういうことか?
「自分の頭で考えなさい」と言われた人は、どうすればいいのか?というところが思考の出発点。

社会人にとって「考えること」の重要性。
また、日本の学校の受験教育は「正解があり、なおかつ正解が一つだけ」という形式に特化しているので、自ずと思考がそのように限定されてしまうという弊を述べていた。
批判的な読書や、他人の意見に批判しよう、というファーストステップにおいては、相手の欠点や欠陥を探すことを「批判」と思いがちだけども、それは思考力を鍛える半分であって、考える力をつけるためにはもう一歩すすんで「代案を出す」ところまでいく必要がありますよね、ということも強調されていた。
概念化、ビッグワードを使うことによる思考停止の危険、問題→思考展開のなかで混同しやすい因果関係と擬似相関の違い、とかそういうのも書いてある。

えーと、僕は自分で考える人なので、この人の言うことは、反論なくごもっとも、と思って、逆に何一つひっかかるところなく読み終えてしまったわけなんですけれども。

ビジネス書にあるような、スキームとか、思考のフレームワークを表にしたものとかなく、平易な文で書かれてあり、いわゆる即効性には乏しいとは思う。
だいたいまあ「考えること」に、即効性など求めてはいけないのだけど。
でも、本書がターゲットにしている「考える力をつけたい人」は、これくらいの文章も読めないんじゃないのかなあ。

遅刻せずに来ている子らに、「遅刻はいけませんよね」とか説教しているような矛盾は、少し感じた。
胃腸が弱い人にこってりした料理があわないように、ちょっと本読むの慣れてない人にこれ読んでもらうの躊躇するなあ。
コンセプト的には職場の新人に読んでほしい内容だよなとは思うが、多分、この本をスイスイ読み通せるか……危惧してしまうな。
そんな難しいこと書いてあるわけじゃないんだけど、論理展開に誠実であろうとする文体のせいで、ちょっと「重い」。

Suchimos "Ashtray"

オススメ度 70点
ナイトドライブのお供に最適度 80点

THE ASHTRAY

THE ASHTRAY

Stay Tuneは流行ったので、よく覚えているサチモス。
今の都市生活者のBGMになりうるサウンドであるということで、田舎棲まいの私も買ってみた。都会にコンプレックスがあるからね(笑)

音楽番組もみないし、現在の音楽について、あまり語る言葉がないのですが、かつてAORと言われたジャンルの正統進化なんじゃないかと思う。
本人たちはJamiroquaiの影響を受けていると言っているが、確かにそう思う。
都会っぽさ、土臭さ、そういうテイストのブレンドも、ほんとちょうどいい按配。
Rap、Hiphopというよりは、確かにJamiroquai感はある。

このアルバム、CMにもなっている表題曲808も、他の曲も格好いいと思う。
「Stay Tune 一発屋」という声も聴かれるけど、普通に格好いいぞ。

ただ、J-Popとかの咀嚼のされ方ではなくて、やっぱ洋楽なのかなあ。BGM的な消費のされ方が似合うのかもしれない。
静音性の高い高級車でぶっ飛ばしながら聴くには、ほんと気持ちよさそう。田舎のおじさんの通俗的な発想だけどね。


Suchmos "808" (Official Music Video)

論語と算盤と私

オススメ度 100点

実は読み切るまでに3−4ヶ月かかってしまったこの本、この人も異色の経歴であるが、経歴以上に、語り口の静かさにすごみを感じた。

中学卒業後に騎手を目指して渡豪し、身体の成長に伴う減量苦によって断念。帰国後、競走馬の育成業務に従事するも交通事故によって再び断念を余儀なくされ、専門学校を経て東京大学へ進学・・・とここまでも異色の経歴ですが、その後も、大学在学中に友人と興したスタートアップの経営+マッキンゼーでのコンサルティング業務+社長としてミクシィの立て直しに奔走+スタンフォード大学StartXのメンターや投資家としての活動

中卒でオーストラリアに渡り騎手としてトレーニングして、そこからドロップアウトした人が東京大学に入学、という振れ幅が、まるで芸能人か?という派手な経歴。その後も、マッキンゼーに行ったり、スタートアップ企業を立ち上げ、Mixiに売却し、Mixiで一年だけ取締役社長になったり。

Webでの記事をみる限り、Mixiでの立て直しというのには、若干の毀誉褒貶があるみたいだ。
野村監督の楽天イーグルスみたいなもんで、監督を交代してから花開いた、みたいな感じもある。
ただ、コンセプトを明確に、戦略を立てる、という仕事は、最前線からは理解されにくいものだけれども、そこが正しく立案できれば、現場で同じことをしていても企業は伸びる、という現実もある。

本を読んだ限りにおいては、この人の語り口は、このような有為転変の多い人生からは想像もつかない、同時代性さえを感じさせない静かなものだ。
歳下の人間が書いたものとはとても思えない。