半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『死都日本』石黒耀、『日本沈没』小松左京

オススメ度 90点
広域災害の専門家は全員読んだらええんちゃうの度 100点

『死都日本』石黒耀

死都日本 (講談社文庫)

死都日本 (講談社文庫)

Kindleにて購入。何ヶ月か寝かせていたのだが、読んでみたら、おもしろくて、一気に読んでしまった。
著者は火山マニアの内科医(これもすごい経歴だな)。

霧島火山噴火、いや先史時代の加久藤火山が噴火したらどうなる……というディザスター小説。
古来地震で滅んだ国はないが、火山では、国家の滅亡はしばしばみられる。
もしピナツボ火山(火山爆発指数6)以上の、火山爆発指数7の火山が噴火したら、どうなるのか。

火山国家日本において、噴火は珍しいことではないので、初動の読みを間違える地方自治体の惨状が、滑稽に描かれる。
霧島火山噴火で、鹿児島市が危険にさらされることはないだろう…と、確かに僕も思うが、超大規模噴火であれば、鹿児島湾を超えて、火砕流鹿児島市に到達してしまうし、おそらく50mくらいの堆積物に覆われて、全滅してしまう。という。
ラハール現象(LAHAR)や、沈降火山灰などの問題で、日本の多くの地域が住めない状況になってしまう、と。
試算では、火山のあとの小氷河期にて、全世界で億単位の死亡者がでるのだとか。

にわかには信じがたい話だが、確かに超巨大火山噴火だと、そうなるのかもしれない。
小説の最後の方では、ゴジラキングギドラ、怪獣大決戦みたいに、この先どないすんねん、という状況になる。
が、そこで首相の演説に、作者の思いが込められていると思うが「沖積平野に築き上げる都市文明は、日本では持続不可能なのではないか、都市づくりのコンセプトを変える必要があるのではないか」と述べていて、非常に説得力があった。
神の手作戦、日本資産の乱高下を利用する相場調整なども、おもしろかった。

ただ、この小説、初出は2002年なんだよね。3・11にこういう教訓が生かされているのか、と考えると、なかなかこういう警世の小説って、現実を変えるには至らないのだなあと嘆息した。

南海トラフ地震BCP訓練とかする人達は、とりあえず全員これ読んだらいいと思った。

この手の小説は、登場人物の手を借りて、現在の政治状況の作者の解釈を代弁せしめるものが多いが、アメリカの大統領首席補佐官の言うこと、割と面白かった。

「我々の友人である日本は、このアメリカの立場をよく理解し、首相みずからが『アメリカの不沈空母と化す』とまで約束してくれました。おかげでアメリカ軍は国内より安い維持費で日本に駐留し中ソに睨みを利かすことができたのです。自己保身のためとは言え、あの国の政権がどれほどひどく国民から搾取して我々に貢いでくれたか考えると、私は少々日本国民に気が咎めたくらいです」

身も蓋もないなあ。

日本沈没小松左京

対して、この手のディザスター小説の金字塔、小松左京の「日本沈没」をついでに読んだ。
これもKindle日替わりセールだった。『首都消失』は高校生の頃読んだ記憶がある。
この小説では日本は完全に海没してしまい、ディアスポラを余儀なくされる。
第二部ではその後のことが書かれているそうだが、これはまだ読んでいない。

高度経済成長真っ只中の日本であり、死都日本とは政治状況も異なり、今読むと、古さを感じるところも多いが、すぐれた仮定小説だと思う。
まだまだ経済的には日出ずるニッポンという描写が、とにかくみずみずしい。この当時はノストラダムスの大予言だとか、こういう日本沈没だとか、核戦争の恐怖だとか、経済発展、現代文明の享受の反面、そういう不安感に横溢していた時代だ。
冷戦の時の「核戦争」に対する漠然とした恐怖感って、同時代人には通じるけど、10ほど年下の人間にはもう話してもピンとこない。