オススメ度 100点
最強度 120点
我々は想像以上にナンシー関の呪縛にとらわれているのかもしれない。と思った。
鈴木凉美は、もとギャル、もとキャバ嬢、もとAV女優にして、その活動の裏で慶應義塾大学、東京大学大学院。
日経新聞に就職するも退職し、大学院の卒論を加筆修正した作品でデビュー。
現在はフリーで、いろんなコラムや連載も持っている超売れっ子。
超売れっ子なのもむべなるかなで、この人、とにかく上手い。
どちらかというと毒舌に属するのだろうけど、切れ味がすばらしい。
この手の、舌鋒するどい女性というと、まあ私世代には『ナンシー関』が思い浮かぶ。
するどい観察眼で、テレビ批評と消しゴム版画という独特のコラボレーションで、一時期は雑誌を総ナメにしていたが、残念ながら2002年に急逝した。
もうナンシー関没後18年も経つのか。
流石に当時の世相を切っていた言説は、対象物のタレントが過去のものになってしまったがために、価値は減価償却されてしまった。
文庫でほぼすべての著作は手元にあるけれども、彼女が「今」を切り取る達人であったがゆえに、もう一度読み返してもかつての新鮮さはないのだ。
でも、当時のナンシー関は、衝撃だったし、当時ロールモデルにはなった。
いわゆる「テレビ番組の毒舌批評」みたいなエピゴーネンもその後何人も現れては消えたが、やはりナンシー関をリファレンスにしている感はある。
しかしナンシー関があまりに卓越していたがゆえに、ナンシー関のスタイル、つまり、芸能人とはほとんどリアルには交流もなく、一般視聴者と同じスタンスでテレビをみて、本質をえぐりだす、というスタイルが過度に神聖視された感はあると思う。
僕も、ああいう、外からの立場で、定点観測をしている人だからこそ、鋭い批評ができるのだ、と思っていた。
ところが、鈴木涼美はそうではない。
完全に手持ちカメラで、自分の周囲5m以内の空間を、鮮やかに切り取り、毒舌で袈裟斬りにするタイプだ。
防犯カメラをずっとのぞいているような、ナンシー関とは根本的にはスタイルが異なる。
しかも本人は、美しく教養もある(けどキャバ嬢もやっていたり、AV女優もやっていたりもする)わけで。
「ペンは剣よりも強し」というけれども、リアルワールドを渡っている「剣」を持っている人が、これほど強いペンをもっているのか。
ただただ感嘆してしまうよね。
メディアにも出れるし、ロウワーな話題も豊富。
ある種、生き物として最高位にあるのかもしれない。
しかし、切れ味がいいんだよなあ。
あと、キャバ嬢、ホストにも詳しいので、色恋のことについても、めちゃめちゃ鋭い。
例示したいけど、うまく抜粋することもできなかったりするので、まあ読んでほしい。
多分実際に会って話をしたら、多分詰められて泣いちゃうと思う。僕なんか。これはもうすこし前に読んだ本。
おじさんメモリアルは、彼女が、援助交際とかキャバ嬢時代とか、社会人になってから、さまざまな遭遇したおじさんを、ときめきメモリアルよろしく、収集した話をコラムにしている。これはこれで現代世相として面白い。僕はキャバクラにも風俗にもほとんどいかないマンなのでこの手のおじさんの哀しき生態は、あまりよくわからないけれど、風俗・キャバクラなどではないフィールドにおいても、おじさんの勘違いなんてとてもよくある。
というか、おじさんは裸の個体では無価値な存在で、でも資本主義経済では金を持っている、というのが現代社会のテーゼなわけで、そんな現実を直視したら、おれたちおじさんは絶望して死ぬしかないのだ。