半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『世にも危険な医療の世界史』

オススメ度 100点
とりあえずやばい豆知識いっぱい手に入る説 100点

世にも危険な医療の世界史

世にも危険な医療の世界史

新刊の紹介はめったにしない私ですが、あまりにも面白く、一気に読んでしまった。

先生、本当にこれで治るんですか?

生まれる時代が違ったら、あなたも受けていたかもしれない――。
科学を知らない人類が試みた、ぞっとする医療の数々!

リンカーン……水銀入りの頭痛薬を服用、重金属中毒になって症状はさらに悪化
ダーウィン……強壮剤としてヒ素を飲み続け、肌が浅黒くなるもやめられない
ヒトラー……猛毒ストリキニーネでできた整腸剤を9年間服用し、危うく致死量に
エジソン……コカイン入りワインを愛し、ハイになりながら徹夜で実験を重ねる
モーツァルト……体調不良の最中2リットルもの血を抜かれ意識喪失、翌日死亡
ルイ14世……生涯に2000回も浣腸を行ない、フランスに浣腸ブームをもたらす

現代医療を生み出した試行錯誤、その〝危険な〟全歴史!

過去に公然と行われていた医療。今となっては「ヤベー医療」ではあるのだが、エビデンスも基礎理論体系も間違っていた古代・中世・(時には近世)の医療を、ジャンルにわけて紹介。ジャンルっていっても第一部:元素、第二部:植物と土、第三部:器具、第四部:動物、第五部:神秘的な力 と、ちょっと今ではジャンルわけできない感じではある。

元素が、人の体にいいという信仰は、錬金術とか、4大元素論からきているのだろうとは思うが、なんともおぞましい。
始皇帝は不老不死に入れあげた挙句、水銀中毒で亡くなったらしい。陵墓の中には水銀の川が流れているそうだが、あけちゃうと有害な水銀が放出されるおそれがあるので、発掘作業をしようにもできないのだとか。
アンチモンは催吐剤として使われる(昔は嘔吐は、なんか体にいいと信じられていたらしい)
新発見された元素と放射能ラジウムも、健康食品などに使われていたらしい。ま、考えてみれば、これほど核アレルギーの日本でも、なぜ「ラドン温泉」がありがたがられるか、よく考えないといけないよな。
アヘン・コカイン・モルヒネ・コカインも、今では非合法薬物であるが、昔は、あかちゃんの寝つきが悪い時に使う薬として売られていたり(怖!)。ヘロインを大々的に売り出していたのはバイエル。
タバコも、薬である時代もあった。タバコが歯磨きに使われたり、万病に効くともてはやされた時代もあったらしい。テムズ川で溺水者に対して、人工呼吸ではなく、タバコ浣腸(!)を行う時代もあった。20世紀に入ると、タバコの健康被害がようやくクローズアップされだすが、タバコ会社は消費者の不安を和らげるため、内科医をCMに出すようになる。
R・J・レイノルズ・タバコカンパニーは「お医者さんがもっとも好んで飲むタバコ、それはキャメルです」というキャッチコピーでキャンペーンをはった。白衣を着て、聴診器をかけた医者がタバコをくゆらせながら微笑む医者のポスターつき。
瀉血も、古代から現代に続く伝統的な治療の一つだが、文献でみられる瀉血量ってハンパないね。喉頭蓋炎を起こしたワシントンは2.5〜4リットルくらい瀉血されて息を引き取った。鷲巣麻雀かよと思う。
水治療施設という存在は、現在のスパの源流であったりするらしく、不適切な医療行為の中から、現在の我々の生活習慣に繋がるようなものがあるのも面白い(ただ、水治療施設は、寒い時でも水冷、水浴を1日に何度も行うようなもので、今では考えられない命がけなものではあったようだ)。

* * *

いやはや。
なんか、なんでも知っている物知りの先輩(ルックスは中島らもとかみうらじゅん)が教えてくれそうなアンダーグラウンドの知識満載の本でした。

現代の医療というのは、効果の実証された治療薬や治療行為であることがほとんどであるが、
近代以前には、しばしば医師や薬剤師の思いつきで治療法が考案され、試された。
実際、その頃の治療行為がそもそも効力の低いものだったので、思いつきの治療法も、
確証バイアス・内集団バイアス・購入後の正当化などの数々のバイアスを経て、有名になり、主流化してゆく。

今のような治療選択の良し悪しを比較検証できる時代がありがたいもんです。
FDAありがとう。

いままでの人類の歴史でも、思いつきで始めた治療が、本当に役立つものである可能性は高くはない、ということをこの本は教えてくれる。
また、トンデモ医学の人がなぜあかんのか、というのもわかる。
彼らは、今まで何千通りも繰り返されてきた先人と同じ過ちを繰り返しているだけなのだ。