オススメ度 70点
世代が変わったことで、解決されてるものもある度 90点
- 作者: 向田邦子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/09/20
- メディア: Kindle版
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うまいよなあ。
向田邦子といえば「うまい」という言葉が、どうしてもついてまわる。
市井の色々な人々の生活模様。社会を切り取る、リアリティ。
アパートの隣に住んでいるホステス。ホステスは男を連れ込んでいるが、その男の一人に惹かれる若妻、ホステスに惹かれる夫。しかし、ギリギリのところで踏みとどまったり踏み留まらなかったりする、人生模様。とか。
本質的に人の苦悩や葛藤など、いくつかのパターンに収斂されるものだから、その意味では色あせず今も通用する話だが、
ただ、まあ、昔の話で、今では意味を失っているものもあるとは思う。
時代の制約は、ある。
現代の東京は、人生転落してもホステスにさえなかなかなれない。風俗嬢だって、なり手が多いため外見ではねられてしまう厳しい世界に僕らは生きている。
昭和の空気感を知らない世代が読んだら、どう読めるんだろう。
まーしかし文章がやっぱりうまい。
冒頭から、
コーヒーの黒い色には、女に見栄をはらせるものが入っているのだろうか。それとも銀色に光る金属パイプとガラスでできている明るい喫茶店のせいなのか、直子は自分の言っていることが上げ底になっているのに気が付いていた。
(『春が来た』より)
だもの。
今基準でもどきっとさせられる書き出しで、エピゴーネンのいない当時はどれだけ新鮮にうつったんだろうか。