半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

ブライアン・フェイガン『歴史を変えた気候大変動』 (河出文庫)

歴史を変えた気候大変動 (河出文庫)

歴史を変えた気候大変動 (河出文庫)

以前にも買ったことがある、ブライアン・フェイガンの本。
以前買った本は「古代文明と気候大変動」という本で
古代文明と気候大変動―人類の運命を変えた二万年史 (河出文庫)
数年〜数十年単位で気候変動は起こるわけですが、その鍵となるのは、エルニーニョ現象ともいわれる南方振動現象で、それによってトレンドを予測することができる。過去の地球の気候変動も、人類の歴史に密接に関わっていますよ、という話で、大変興味深い本でした。(以前のレビュー>http://d.hatena.ne.jp/hanjukudoctor/20081217

で、今回の本は、総論に対する各論といった感じの趣きです。ヨーロッパの歴史との関わりを掘り下げています。
おそらく欧米の読者にとってヨーロッパ史は常識なので、常識である歴史に「気候変動」というレイヤーを重ねてみると、目からウロコな事実が導き出されるのだと思う。


 というか、感情移入してしまうところもあるね、気候に翻弄される住人たちに。
 ヨーロッパの気候は結構悲惨であることは知っていたけれども、改めて史実とあわせてみると、ほんと大変だわと思った。
 ヨーロッパの農民って、ホントカツカツのところで生存しているのね。
 そして天候不良が、数年単位でめぐってくると、 どうしようもない。
 グリーンランドに入植したバイキングの人たちとかは、その後、中世に入り平均気温が少し下がると、もう集団を維持できなくて絶滅するわけですけれども、もうそりゃ、そんなの個人の努力じゃどうにもならんわけですよ。「バイキングビッケ」にはそんなこと書いてなかったぞ。

「文明崩壊」という本でも出てきたけれども、その地域の生産力が逓減し、人口を養えなくなるとどうなるか…というと、
最終的には人口は減るわけだけれども、その減る過程というのは、そりゃこの世の地獄です。
生産力下降トレンドというのは、漫画版『風の谷のナウシカ』の大海嘯の後の土鬼諸王国を想像していただければ幸い。

フランス革命とかも、もちろん政治上の出来事(封建制・貴族制の打倒とか)というのも大きなファクターなんだろうけど、
直接的なきっかけは天候不良によって、どうにもならなくなった農民による、まあたとえば日本における「米騒動」みたいな
騒ぎであるらしい。でも、イギリスの農業改革よりもフランスは数世紀遅れていたために、農民はそういう憂き目にあったらしいから、これはやはり、天候の話だけでなく、歴史の話でもあり、経済の話でもある。

あと、高校生の時のイギリスの歴史で習った土地の囲い込み「エンクロージャー」というのも、ちょっと僕誤解してました。あれは、エンクロージャーによって、農民が土地を追われて、産業革命の都市労働力になりましたー、っていう、若干マルクス史観も混ざった説明で満足していたんだけれども、農業の合理化という観点でみると、必ずしも悪かったとはいえないようだ。フランスにしろ、アイルランドにしろ餓死者が出るような天候不良の年でもイギリスが最も飢餓の程度が低いのである。

 僕の生きている間に、こうした天候不良による飢餓が、なければいいなあと思う。
石油燃料がなくなってくると、おそらく、農作物の生産量は今後頭打ちになってくるし、日本の国際競争力が相対的に低下すると、全世界規模での食料不足のときに、為政者が相当狡猾にたちまわらないと、餓死する危険が、ある。
 中世ヨーロッパの昔話だけど、きっと歴史は繰り返す。