半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

今福龍太『クレオール主義』

 一人の人間が一生をかけてなした端正な仕事をあっさりと読み散らすというのも一つの加虐的な喜び。
 買ってみて一年くらい経つが、今ひとつ読み切れていなかったので再読。やはり、全貌が把握しにくい。もっとも、この間ケン・バーンズ ジャズを見たことで、クレオールに関する理解はやや深まってはいるが、とても学問として把握することなどできない。

 といいながら、ぼんやり読み進む。
 なぜ日本でジャズがこれほどまでに流行ったかという理由の一つとして、こうしたクレオール主義的なアプローチが有効かもしれないと思った。
 日本人は血統の上では未だに高い純血率を誇っているが、文化的には明治維新以降、西洋文明の侵攻に常に曝されてきたわけで、文化における外的要因はクレオールのそれと似かよっっている。
 日本でジャズが流行ったのは、単にアメリカ文化の占領文化というだけではないと思う。なぜなら、いわゆるアメリカのメインストリームカルチャーであるブロードウェイミュージカルなどは日本であまりはやらなかったし、そもそもアメリカ国内ではジャズの位置づけも、日本にいる我々が考えるほどメジャーなものでもない。
 また、ジャズの流行は実は戦後からでもない。日本におけるジャズ流行のルーツは戦前の上海租界などである。こうした場所はいかにもクレオール的だ。
 ゆえに、当時の日本の文化状況が、きわめてクレオール文化であるジャズを受け入れやすい状態であったのではないかと僕は推測する。民族的な移動もなく、国内で均質な文化を形成してはいたが、明治維新後の日本は圧倒的な西洋文化至上主義に制圧されており、自国の文化をサブカルチャーとすることを甘受させられていたことは間違いない。そうした外圧を受けて、日本文化は変容せざるをえず、いわゆる大正モダニズムは、この本来相容れない両者の文化のハイブリッドであった、つまりある種のクレオール文化であったと思うのである。
 と、ちょっと思いついてみたが、こうしたことを書いている人はいるのだろうか。専門家でないからよくわからないが、学生の卒論の題材ぐらいにはなりそうな気がする。でもまぁ、誰かが思いついているだろう。僕が考えるようなことは、みんな考えつくのだ。