これは10日ばかり前に古本屋で購入。みすず書房がいわゆる新古本店で売られているのはめずらしい。もっとも、この本はみすず書房のなかでも一番部数が出ている方ではないかと思う。
アウシュビッツの強制収容所における体験記録。作者が心理学の教授だけあって、収容所での心理的な変動などが追跡されている。凄絶であるが、一貫して淡々とした筆致が逆に生々しい。
こういう異常な外的環境において様々な精神的な防御機構が働くが、逆にこの教授自身が観察者としての自分を切り離すことでなんとか正気を保てていたのではないかと思ったりもした。
個人的には、解放後の収容者の精神状態(第三段階)の部分こそが印象的であった。解放後、収容所の近くを歩いていたときに、麦畑を踏み荒らして横切ろうとした仲間をたしなめた作者に対し、「何が悪いのか!俺たちが受けた数々の事に比べたら……」と気色ばんで逆ギレした仲間の話。収容所内の苛烈なエピソードは明らかに、自我を傷つける。それに対するバランスをとるために自分に対して(他人にとっては幼稚とみえるほどの)自己正当化の心理機構が働く。
これはたとえば北朝鮮拉致家族の現在の言動にもあてはまることだ。周りと自分の間の温度差で、事が終わった後も傷つき続けるのだ。なんだか気が重くなった。