オススメ度 100点
シン・ゴジラ度 100点
期せずして感染症ウィークみたいになったが、最後は、これも12月に刊行された、『8割おじさん』こと西浦教授の本。
コロナ騒動の初期から緊急事態宣言までの喧騒の中で、西浦教授の身に起こったことが書かれている。
コロナについては、現代を生きているなら、皆大なり小なり大きな影響を受けたはずだ。
ダイヤモンド・プリンセス号の一件から、徐々に全国に感染が広がり、そして緊急事態宣言がだされるあたりの異常な雰囲気はみな覚えていると思う。この本は、「8割おじさん」の視点でその当時の喧騒を描いたもの。
冒頭にも書いたが、『シン・ゴジラ』感が満点だ。複雑な官僚機構の中で、目的に合致した組織がない場合、徒手空拳でワーキンググループを作らなければいけない。クラスター対策班は、そういった経緯で作られ、不十分とは言えない体制の中データをだし、そしてその予測結果を踏まえて、政府に様々な提案をしてゆく。
いろいろな団体を作って、ブレインストーミングをして、というプロセスは、非常にスリリングで、読んでいて引き込まれるものがあった。
読んでいて感じたのが、西浦先生の、人柄。
科学者らしい、率直で真っ直ぐな考え、そして、チームの構成員に対する目配りとリスペクトもすごい。
論文を量産する科学者あるあるなのかもしれないが、Acknowledgementを書き慣れている雰囲気がすごくある。集まったメンバーへの言及なども、敬意を常に込めて、紹介されている。科学者でもアクの強い人は、「俺が一番頭がよくてすべてのことを知っている」みたいなエゴな感じが、ついつい隠しきれない人は結構いるのだが、西浦先生は、まあ理論疫学という武器を持っているからかもしれないが、非常に「俺が俺が」感からは無縁の印象を受けた。
あと、この人がみる、尾身先生像ね。
西浦先生はものすごく頭は切れる方だけれども、どちらかというと学者然としてナイーブさがある人だけど、尾身先生は政府や官僚を相手に渡り合って一歩も退かないし、妥協と落とし所をさぐってゆく、とんでもないタフ・ネゴシエーター。
尾身先生ってやっぱりすごいんだよな…と思うし、その尊敬がいや増しになる一冊だと言えるだろう。
それにしても第三波が待ったなしできている昨今。
政治と専門家との足並みも、むしろ初期はうまくいきすぎたのだろう。
最近は日本のお家芸であるマネジメント不足による混乱が散見される。
今、この本を読むと、「ああ、第一波の感染被害が少なかったのは、この人達が頑張って、短時間でウイルスの感染様式の特徴を洞察し、それにあっている対策をアナウンスできたからなんだよな」と思えること請けあいである。
アメリカや中国のチームとくらべて、日本は予算額も、政府のバックアップも貧弱な中で、よくこれだけのチームを作り上げることができたと思う。三密というコンセプトができるまでの経緯も書かれていた。
hanjukudoctor.hatenablog.com
しつこいようだけど、これまた上げておく。三密というコンセプトを樹立できた洞察力が、このクラスタ対策班にはある。
決して、第一波での日本は、ラッキーパンチではなく、この人達の努力と洞察力あってこそだと思う。
タイトルは、内容のテンションと本当にあっているのかな?と思ったが、本文はとてもおもしろく読めた。
5年後に振り返って読む場合、どういう感想になるのかわからないけど、今年前半の「答え合わせ」としてとても興味深い。
『8割おじさん』こと西浦教授の人となりも十二分にうかがえるアツい本である。