半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

ジャズ・スタンダード・アナライズ~名曲誕生の謎を紐解く

オススメ度 100点
でも、ちょっと過剰に意味を汲み取りすぎていませんか?度も 100点

ジャズ・スタンダード・アナライズ~名曲誕生の謎を紐解く

ジャズ・スタンダード・アナライズ~名曲誕生の謎を紐解く

Jazzの店で薦められて購入。これはおもしろかった。

一言で言えば、スタンダード・ジャズのリードシートのアナリゼということなのだが、
むしろどちらかというと「旋律学」といいますか、コード進行の理論と、旋律の妙を、解析している。

歌詞そのものには立ち入らないが、旋律とコード進行の、数理的な解析というよりは「意味論」といいますか。そういう感じ。
ちょっとトンデモの域にギリギリ踏み込みつつ…
数学の本だと思ったら、数秘術の本だった、みたいな読み味があることは否定できない。
ただ、メロディーのMotifの展開法とか、コード進行とかの部分についても、かなり詳細な解説をしてくれる。
アドリブのためのChord Progressionを勉強する機会は多いが、Melody-Makingおよび、Chord Constructionまで教えてくれる本はあまりない。

「名曲とは偶然ではない、名曲なるべくしてなったのだ」という言葉が章の結びに頻出するのだが、著者の本音そのものなのだろうと思う。

個人的にはIpanemaの娘のBメロの解析を長いことなおざりにしていたのが謎がとけてよかったです。
それより、思っていたコード進行が違っていましたけど。Bメロ二段目 F#m7が、この本ではAmaj7、三段目 Gm7がこの本ではBbmaj7なんですよ。
まあその方が整合性は取れやすかなー、とかは思った。まあ骨組みとしては本質的に同じだし。

Kenny Drew ”Undercurrent”

オススメ度 60点

Undercurrent

Undercurrent

少し前、吉村昭の初期作品、晩年とけっこう違うな−ということを書いた際に、Kenny Drewみたいだねーとか書いた。
halfboileddoc.hatenablog.com

例に挙げはしたものの、もっていなかったCDなので、買った。
イマドキはStreamingで聴けばいいのだけれど、アナクロな人間なので*1きちんと聴くときは、やはりCDを買うことにしている。
メンバーは:
Freddie Hubbard (tp)
Hank Mobley (tp)
Kenny Drew (p)
Sam Jones (b)
Louis Hayes (ds)

まぎれもないハードバップの佳作だと思う。
肩の力が入りすぎているといえば入りすぎている、ちょっと凝りすぎたヘッドアレンジ。
ハバードも、ハンク・モブレーもかなりイケイケ。

ただ、かなりの力作ではあるけれども、全曲オリジナルで、ジャンルそのものの興奮も遠くなった現代から振り返ると、「聴きどころ」が難しいかもね。
膨大なアーカイブの中では、スタンダードナンバーの一つも入っていないと、かえりみられない。
(例えば、Criss Crossレーベルとかは、そういう時代を考慮して、一曲はスタンダードが入っていたりする)

こういう作品が安穏としていたジャンルごと廃棄されたのが70年代であり、80年代だからね。
なんか晩年、Kenny Drewが、ヨーロッパで、ベタベタでアマアマのスタンダード曲集を録音して日銭を稼いでいたのも、無理ないなあという気がする。
そういう意味では、このアルバムは青春の蹉跌みたいなもんだ。

ちなみにUndercurrentという題名では、こちらを連想する方が多いとは思う。

Undercurrent [12 inch Analog]

Undercurrent [12 inch Analog]

Bill EvansJim HallのDuo。二人の丁々発止としたやり取り、むしろBill Evansのソリッドさが際立つこちらのほうが、世間的には知名度が高い。
こちらはStandard中心に選曲されているが、これも一曲として緩むことがない。

*1:アナクロ、こそ言わないな

『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる』林伸次

バーを経営されている林伸次*1さんの小説というか、セミフィクションというか、そういうもの。

一つのエピソードに、カクテル、音楽がついてきて、おしゃれな文化っぽい雰囲気のある短編集。
オシャレっすよね。ええほんと。都会の恋模様。
ちょっと古いけど、アーウィン・ショウみたいな感じを目指しているんだろうか。

ジャズももちろんでてくるのだけれど、ジャズ喫茶ではなく、消費音楽(Wallpaper music)としてジャズを使っている人間の趣味嗜好がほの見えてよいです。

恋愛の春の終わりはキス。
既読になったのに返事が来ないことが秋の始まりなんです

うーん。
いや、うーん。(よく既読無視する男)


あと、これは本編とは関係ないけど、シンガーズ・アンリミテッドが話に出てきたわけです。

当時のアメリカの音楽ビジネスはアルバム発表後、全米ツアーをするというのが一般的な売り方だったのだが、シンガーズ・アンリミテッドはレコードの録音をステージ上では再現できないため、ツアーが不可能だった。「アンリミテッド=制限のない歌手たち」は「制限がある歌手たち」だった。

私もシンガーズ・アンリミテッド好きで、実はCompleted Boxも持っているくらいなのだが、そういう経緯はよく知らなかったなあ。
ボイス・パーカッションが取り入れられる以前の時代のユニットとしては最高峰ではないかと思っています。

ア・カペラ

ア・カペラ

  • アーティスト: シンガーズ・アンリミテッド
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2003/05/21
  • メディア: CD
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このアルバムがバランスとれていてオススメかと思う。
Spotifyとか、Apple Musicとか、ストリーミングサービスででも聴いてみてください。

*1:最初、え?デイリーポータルZの人?ウェブやぎの目、の人?と思いましたが、あれは林雄司さんですね。

Frank Sinatra "The Christmas Album"

The Christmas Album

The Christmas Album

僕のパソコンのアーカイブの中には、Brazilian MusicとかMotownとかの変則クリスマスアルバムが入っている*1
がこの度、正統派中の正統派、Frank Sinatraのクリスマス曲集を買った。
CDで買ったのだが、今ドキは、Apple MusicやSpotifyなどのストリーミングで聞き流してもよかったのかもしれない。

1957年作のシナトラ絶頂期のアルバム。
内容は、まあ…完全に、シナトラワールド。
シナトラは自前のビッグバンドをもってるので演奏はその人達。
どっからどうみてもシナトラ。

今では個性やオリジナリティ尊重っつったって、この頃はアメリカ音楽界も、売れりゃなんでもいいらしく、
メル・トーメで有名なクリスマスソングも、ビング・クロスビーで有名なホワイトクリスマスも入っていて、節操はない。
ただ、まあその分お得だ。
ある種の教材ですな。

もうクリスマスは過ぎてしまったので、来年また仕込み(クリスマス時期のライブ用に)ましょ。

*1:大体CDキチガイだった10年前に買ったものだ

Blue Giant Supreme 6

Kindle版はコチラ

このBlogでは一度も取り上げたことはないと思うが、あたしも、アマチュアジャズマンの端くれ。
ジャズ漫画ということでは、細野不二彦「Blow Up!」以来出るものはチェックしているでございますよ*1

国内版 Blue Giantが終了し、海外編のBlue Giant Supremeも順調に進んでいる。
ダイはメンバーをみつけてバンドを組む。
しかし結成第一回目のお披露目では、ボタンの掛け違いのような感じで手ひどく失敗する。
(このあたり、妙にリアリティあるよな)

失意にくれる暇もなくその後、ドサ回りのようなツアーのようなものを始めた御一行様。
相変わらず金はない。
が、メンバー同士の理解も進み、サウンドも進化しているようだ。
私はプロツアー経験はもちろんないが、たまに地元にツアーで来るミュージシャンにツアーの話を聞くこともある。
毎晩演奏を繰り返し、みんなで行動をともにするので、やはり何かしら演奏にもブレークスルーがあるらしい。

フェスの参加にこぎつけ、次巻に続くが、楽しみだ。

* * *

非常に共感できる漫画なんだけれども、私のスタンスは、ドラムのラファエルに近い。
サウンドをまとめて破綻なくそれぞれの持ち味を発揮させる、というのが、自分の考える理想のサウンドメイク。
逆に、主人公宮本大のような、ある種「現代のJohn Coltrane」とでもいうような、突き詰めて突破するような、ストイシズムとは相容れない。
そもそも自分の中のデーモニッシュな要素と向き合うことを、僕はきちんとやってきたのだろうか?
ジャズのイディオムのような明晰な部分については、積み重ねてきた。

しかし、アクセルをめいいっぱい踏んで自分のエンジンをレッドゾーンまで回すようなことは、してきただろうか?*2

最澄空海
顕教密教

顕教最澄は、空海にはなれなかった。
ジャズも、解析可能な部分だけを取り扱っていても、多分その次のレベルにはいけないのだ。

僕は顕教の人間なのだ。


そんなことを考えなければいけないので、Blue Giantを読むと、自己嫌悪に陥る。

* * *

6巻の前半では、公共施設においてあるピアノがターニングポイントになっている。
最近地元の駅の構内にピアノが置かれていて、私も時々弾く。
音楽のもとには人は平等であるが、ピアノだと十分自分が発揮できないのがもどかしい。
 そして、自分が弾いたあと、上手い人が弾いたりすると、顔から火が出そうに恥ずかしい。

大のように、屈託なくまっすぐに音楽に取り組めればいいのだが。

*1:坂道のアポロン」はアニメも漫画も良かったですよね

*2:これは無理もない話で、私は、ゲイリー・マクファーランドとか、ジョアン・ジルベルトとか好きなんだから仕方がない。

"In Concert" Art Farmer/ Slide Hampton

イン・コンサート

イン・コンサート

いきなり、違和感のあるものを取り上げて恐縮です。別にネタに尽きたわけじゃないですけど。
この前、iTunesで自分のリスト内のものを乱れ聴きしていたら*1、ヒットした。
大学一年生くらいのときに愛聴していた、佳作でもなんでもないやつ。
なっつかしー。

Art Farmer、Slide Hampton。
ともにバップ派というか、自分の好みのスタイルの人たち。
特にミディアムとかスロウの曲で、構築的なソロ展開はとてもお手本になるヴァーチュオーゾです。

そんな人達が、なぜかこのライブでは、超速というか*2、まあまあのテンポで、しかも全曲スタンダードをやりまくる。Half Nelson, Darn that Dream, Barbados, I'll Remember Aprilとちょうどいい感じのスタンダードです。
大学1年のときには、Barbados (Fのブルース)とAprilしかわかんなかったな。

で、演奏内容なんですけど(笑)
多分、スライドハンプトンにこのCDを持っていったら、
「いや、ちょっと、やめてよー(笑)。
 他にもっといい作品あるでしょー?」
と笑っていうんじゃないかと思う。そういう一品。

スライドハンプトンたとえばI'll Remember Aprilとかは吹けていない部分もある。トロンボニストにとって「ちょっときついなー」というテンポ。

だけど、そういう、上手な人のライブでの不完全な演奏って、実はいろいろ勉強になる。乱れたところからの立て直しとか。フレーズも無理やりなんとか押し込んでいる感じとか、破綻する演奏から(ぎりぎり破綻してないですけど)見えてくるものは結構あるので。

ドイツかどっかでのライブ。リズムセクションは、
Bass – Ron McClure
Piano – Jim McNeely
Drums – Adam Nussbaum
お、結構いいじゃん。これも大学1年のときにはよくわからなかったけど、ヨーロッパジャズの、今では重鎮の人たちですよね。
フロントの人たちの大汗を横目に、汗一つかかず、クールに地獄に連れて行く……って感じの演奏です。

ちなみに僕がSlide Hamptonで一番好きなのは、David Hazeltineのアルバムでの客演ね。

4 Flights Up

4 Flights Up

  • アーティスト: David Hazeltine Quartet,David Hazeltine,Slide Hampton,Peter Washington,Killer Ray Appleton
  • 出版社/メーカー: Sharp Nine
  • 発売日: 2009/03/07
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る
I should Careから始めるこのアルバム、何曲かコピーしました。
決して奇策に走らずフレーズを丁寧に重ねてゆく感じ、すごくお手本にしたい感じなんです。
他にもいい演奏は一杯あります。

*1:ちなみに私は古典的な音楽愛好者なので、基本的に音楽コンテンツはCDでもつようにしています。ストリーミングクソくらえです。iTunesには26000曲が収まっています。

*2:最近ではチョッパヤ!つーんすかね

Born to be Blue (ブルーに生まれついて)

amazon primeで観た。
 映画館でやっていたときにも、気にはなっていたが、2015年の私には映画館とは子供の機嫌をとりに妖怪ウォッチ*1アイカツを観に行く、ある種必要悪の場所だった。この時期映画館にわざわざ行きたいとは思わなかった。ま、今でも映画はいかない。二時間ぎっちり拘束される時間はなかなか捻出できないから。

 控えめに言っても、私はかなりチェット・ベイカーが好きな方だと思う。
 これを書くためにiTunesの中を調べてみるとChet Bakerのリーダーアルバムだけで21枚あった*2

 ソロのコピー(Transcribe)も10曲以上しているはずだ。だから僕のアドリブには軽妙なチェットのリックがちょっとさしはさまれてしまう。
「♫チェット生まれ神戸育ち、可愛い子とは大体友達」っていうのが僕だ。

そんな私がみても、イーサン・ホークの演技はうまいなと思った。
というか、顔とかめちゃめちゃ似ている。
Lets Get Lostでの晩年のチェットの顔貌をよく研究していると思う*3
 歯を折られて、もさーとした、ジャンキー特有のどろりとした顔を忠実に再現している。また、少し背を曲がった、世捨て人のような、スポーツできなさそうな歩き方も、おそらくチェット・ベイカーを丁寧に演じているのだろう。

 しかし、シーンの少なさ、広い空間を活かした画面づくりのなさからいうと、これはやはり低予算映画なんだろうな。

 * *

 楽器奏者からするとイーサン・ホークの吹き方はとても息が入っているとは言えず、噴飯ものではあるが、これも現代の名優が僕の大好きなチェットのモノマネをしてくれていると思うと、腹も立たない。少し気になったのは、劇中曲。
 Chet Bakerは楽譜が読めないので、レパートリーは極端に少なく、晩年は本当同じ曲ばかり繰り返して演奏している。
 劇中の曲を、もっとその偏ったレパートリーによせてくれればよかったのに。
 How Deep is the oceanとか、But Not For Meとか、Look for the Silver Liningとか。

 でも、口ぐちゃぐちゃになったあと、人前で吹くときの、音が出るか?出るか?という、緊張感を秘めて音を出すシーンとか、すごくよくできていたと思う。

 以下、少しネタバレになる。

*1:気がつけば妖怪ウォッチは跡形もない。プリキュアなどは今も生き永らえているが、あれは本当に一過性のものだったなあ。

*2:ちなみに私的ベストはChet Baker in TokyoとSteeple ChaseでのDoug Raney、Pedersonのトリオの作品である。

*3:もっともこれを演技というかどうかって微妙な話ではある。「モノマネ」じゃないのか。だとしたらコロッケは最優秀助演男優賞くらいとれるのではないか。

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