半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

Born to be Blue (ブルーに生まれついて)

amazon primeで観た。
 映画館でやっていたときにも、気にはなっていたが、2015年の私には映画館とは子供の機嫌をとりに妖怪ウォッチ*1アイカツを観に行く、ある種必要悪の場所だった。この時期映画館にわざわざ行きたいとは思わなかった。ま、今でも映画はいかない。二時間ぎっちり拘束される時間はなかなか捻出できないから。

 控えめに言っても、私はかなりチェット・ベイカーが好きな方だと思う。
 これを書くためにiTunesの中を調べてみるとChet Bakerのリーダーアルバムだけで21枚あった*2

 ソロのコピー(Transcribe)も10曲以上しているはずだ。だから僕のアドリブには軽妙なチェットのリックがちょっとさしはさまれてしまう。
「♫チェット生まれ神戸育ち、可愛い子とは大体友達」っていうのが僕だ。

そんな私がみても、イーサン・ホークの演技はうまいなと思った。
というか、顔とかめちゃめちゃ似ている。
Lets Get Lostでの晩年のチェットの顔貌をよく研究していると思う*3
 歯を折られて、もさーとした、ジャンキー特有のどろりとした顔を忠実に再現している。また、少し背を曲がった、世捨て人のような、スポーツできなさそうな歩き方も、おそらくチェット・ベイカーを丁寧に演じているのだろう。

 しかし、シーンの少なさ、広い空間を活かした画面づくりのなさからいうと、これはやはり低予算映画なんだろうな。

 * *

 楽器奏者からするとイーサン・ホークの吹き方はとても息が入っているとは言えず、噴飯ものではあるが、これも現代の名優が僕の大好きなチェットのモノマネをしてくれていると思うと、腹も立たない。少し気になったのは、劇中曲。
 Chet Bakerは楽譜が読めないので、レパートリーは極端に少なく、晩年は本当同じ曲ばかり繰り返して演奏している。
 劇中の曲を、もっとその偏ったレパートリーによせてくれればよかったのに。
 How Deep is the oceanとか、But Not For Meとか、Look for the Silver Liningとか。

 でも、口ぐちゃぐちゃになったあと、人前で吹くときの、音が出るか?出るか?という、緊張感を秘めて音を出すシーンとか、すごくよくできていたと思う。

 以下、少しネタバレになる。


 ストーリーは比較的シンプルなもの。大体史実どおり。
 麻薬に溺れ、マフィアにボコボコにされてすべてを失ったチェットは女優が支えてくれて、田舎に帰って必死こいてトレーニングして、ウェスト・コーストで復帰しました。がんばりましたー。
 そこで、さらに名声を得ようと、有名ライブハウス「バードランド」に出演したい。いろいろコネ使って出演したる……

 楽屋。……
 ついにバードランドの本番や。もうすぐ始まるけど、このプレッシャーに耐えられへん……
 ほんまに一度どん底におちた俺はこんなところで皆を満足させる演奏できるやろか……… ………俺は…… 俺は……

 観客「結構いい演奏するじゃん」
 彼女(あかん、あいつヤクに逃げよった)

 ということでチェットはその後ヨーロッパで麻薬に溺れながら息を吸うようにその日暮らしの演奏をして死ぬまで暮らしましたとさ。

 私はこの後半生のチェットがとても好きだ。以下のアルバム、聴いたことなければぜひ一度聴いてみられたい。

Touch of Your Lips

Touch of Your Lips

Daybreak: Live in Montmartre Vol. 1

Daybreak: Live in Montmartre Vol. 1

This Is Always

This Is Always

*1:気がつけば妖怪ウォッチは跡形もない。プリキュアなどは今も生き永らえているが、あれは本当に一過性のものだったなあ。

*2:ちなみに私的ベストはChet Baker in TokyoとSteeple ChaseでのDoug Raney、Pedersonのトリオの作品である。

*3:もっともこれを演技というかどうかって微妙な話ではある。「モノマネ」じゃないのか。だとしたらコロッケは最優秀助演男優賞くらいとれるのではないか。